街を歩いていると、マンション全体が足場とシートで覆われている光景を見かけることがあります。
「建て替えているのかな?」
と思う人もいるかもしれません。
しかし多くの場合、それはマンションの大規模修繕工事です。
外壁を補修する。
タイルを直す。
屋上やバルコニーの防水をやり直す。
鉄部を塗装する。
シーリング材を交換する。
マンションを長く使い続けるために、さまざまな工事をまとめて行っています。
「マンションは管理で選ぶ」第4回は、普段なかなか見ることのできない大規模修繕工事の中身と、その重要性を見ていきます。
大規模修繕は「マンションを新品にする工事」ではない
まず、大規模修繕とは何なのでしょうか。
名前だけを見ると、
「マンションを全面的に新しくする工事」
のように感じるかもしれません。
しかし基本的な目的は、建物の劣化した部分を補修し、性能や安全性を維持することです。
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、マンションの主な修繕項目として、屋根防水、床防水、外壁、鉄部、給排水設備、昇降機設備、立体駐車場など幅広い項目が示されています。
つまりマンションは、
古くなったら全部壊して造り直すのではなく、必要な部分を定期的に修繕しながら長く使う建物
なのです。
大規模修繕は何年ごとに行うの?
よく、
「マンションの大規模修繕は12年ごと」
と言われます。
しかし、すべてのマンションが必ず12年ごとに工事をするわけではありません。
国土交通省の資料では、平均的な大規模修繕周期としておおむね12年から15年程度が一つの参考とされています。
実際には、
建物の状態。
使用している材料。
立地環境。
過去の修繕状況。
工事内容。
資金状況。
などによって適切な時期は変わります。
海に近いマンション。
雨風を受けやすい高層マンション。
日当たりの強い外壁。
などでは、劣化の進み方も同じとは限りません。
そのため、
「築12年だから自動的に工事」ではなく、建物の状態を調査して判断する
ことが重要です。
なぜマンション全体を足場で囲むのか
大規模修繕といえば、建物の周囲に巨大な足場を組み、シートで覆う姿が印象的です。
なぜあれほど大掛かりな設備が必要なのでしょうか。
理由の一つは、高い場所にある外壁やバルコニーを安全に点検・補修するためです。
マンションの外壁には、
ひび割れ。
タイルの浮き。
塗装の劣化。
シーリング材の劣化。
などが発生することがあります。
こうした場所を職人が確認し、補修するには作業用の足場が必要です。
そして足場を組むには大きな費用がかかります。
そのため国土交通省の資料でも、足場を必要とする複数の工事は、時期を合わせてまとめて行うことが一般的とされています。
つまり大規模修繕は、
足場を一度組んだタイミングで、外壁や防水など複数の工事をまとめて行う
という合理的な仕組みでもあります。
外壁では「ひび割れ」を補修する
マンションの外壁を見ると、細いひびが入っていることがあります。
コンクリートは非常に丈夫な材料ですが、温度変化や乾燥収縮などによってひび割れが生じることがあります。
すべてのひび割れが建物の重大な危険を意味するわけではありません。
しかし放置すると、そこから水分が侵入し、内部の鉄筋などに影響を与える可能性があります。
そのため大規模修繕では、
ひび割れの状態を調べる。
必要に応じて補修材を注入する。
表面を補修する。
といった工事を行います。
外壁の美しさを取り戻すだけではなく、
水を建物内部へ入りにくくする
ことも重要なのです。
タイルは「落ちないか」を確認する
タイル張りのマンションでは、外壁タイルも重要な点検対象です。
一見きれいに見えるタイルでも、下地との接着が弱くなり、「浮き」が発生していることがあります。
もし高い場所からタイルが落下すれば危険です。
そこで大規模修繕では、
外壁を調査する。
浮きやひび割れを確認する。
必要なタイルを補修・交換する。
といった工事を行います。
大規模修繕は、
「見た目をきれいにするリフォーム」
というより、
建物を安全に使い続けるためのメンテナンス
という意味合いのほうが大きいのです。
「シーリング」という地味だが重要な部分
大規模修繕でよく聞く言葉に、
「シーリング」
があります。
聞き慣れない人も多いでしょう。
シーリング材とは、建物の継ぎ目などに充填されている弾力のある材料です。
たとえば、
窓サッシの周囲。
外壁パネルの継ぎ目。
建物の目地。
などに使われています。
建物は温度変化などによってわずかに伸び縮みします。
そこで硬い材料だけで接合するのではなく、柔軟性のあるシーリング材を入れることで動きを吸収します。
しかしシーリング材も時間とともに硬くなったり、ひび割れたりします。
劣化すると雨水が入りやすくなるため、大規模修繕では古いシーリング材を撤去し、新しく打ち替えることがあります。
目立たない部分ですが、
雨漏りを防ぐうえで重要な工事
です。
屋上では「防水」をやり直す
マンションの屋上は、常に雨や紫外線にさらされています。
もちろんコンクリートだけで雨を防いでいるわけではありません。
屋上には防水層が施工されています。
しかし、この防水層も永久に持つわけではありません。
時間が経つと、
ひび割れ。
膨れ。
剥がれ。
劣化。
などが起きることがあります。
防水性能が落ちれば、雨水が建物内部へ入り、漏水につながる可能性があります。
国土交通省の長期修繕計画でも、屋根防水や床防水は主要な修繕項目として位置付けられています。
大規模修繕では、屋上やバルコニーなどの防水状態を確認し、必要な補修や改修を行います。
バルコニーも共用部分であることが多い
マンションでは、自分の部屋についているバルコニーを、
「自分のもの」
と感じる人も多いでしょう。
しかし一般的な分譲マンションでは、バルコニーは共用部分として扱われ、各住戸が専用使用する形になっているケースが多くあります。
そのため大規模修繕では、
バルコニー床の防水。
外壁。
天井。
手すり。
排水口。
なども工事対象になることがあります。
工事期間中は、
洗濯物を外に干せない。
バルコニーへ出られない。
荷物や植木鉢を撤去する。
といった制約が生じる場合もあります。
居住者にとって、大規模修繕は建物だけでなく生活にも影響する工事なのです。
鉄部は放っておくと「サビ」が進む
マンションには意外と多くの鉄部があります。
扉。
手すり。
階段。
設備ボックス。
駐輪場。
機械設備。
鉄は塗装によって保護されていますが、塗膜が劣化するとサビが発生します。
そこで大規模修繕では、
サビを落とす。
下地処理をする。
防錆塗料を塗る。
仕上げ塗装をする。
といった工事を行います。
一見すると「色を塗り直しているだけ」に見えますが、
鉄を腐食から守るための工事
という意味があります。
大規模修繕で配管やエレベーターも全部交換するの?
ここは誤解されやすいところです。
大規模修繕という名前から、
「外壁も配管もエレベーターも全部一度に交換する」
と思うかもしれません。
しかし必ずしもそうではありません。
外壁や防水を中心とした大規模修繕と、
給排水管の更新。
エレベーター更新。
機械式駐車場更新。
などは、それぞれ別の時期に行う場合もあります。
長期修繕計画では、こうした設備についても将来の修繕・更新時期を考えます。国土交通省のガイドラインでは、修繕工事項目として給排水設備や昇降機、立体駐車場なども含まれています。
つまり大規模修繕を見るときは、
「今回何を直したのか」と「今後何が残っているのか」
を分けて見る必要があります。
「大規模修繕済みだから安心」とは限らない
中古マンションの広告で、
「大規模修繕工事実施済み」
という表記を見かけることがあります。
安心材料の一つではあります。
しかし、それだけで判断するのは早いでしょう。
確認したいのは、
いつ工事をしたか。
何を修繕したか。
どれくらい費用がかかったか。
追加工事はあったか。
次の工事はいつか。
修繕積立金はいくら残っているか。
です。
たとえば大規模修繕が終わった直後でも、数年後にエレベーターの大型更新が予定されているかもしれません。
給排水設備の工事が控えている可能性もあります。
そのため、
「大規模修繕済み」という一言だけでなく、工事内容まで確認する
ことが重要です。
工事前には「建物診断」が行われることもある
大規模修繕では、工事前に建物の劣化状況を調査することがあります。
外壁の状態。
タイルの浮き。
防水状態。
鉄部のサビ。
シーリング材の劣化。
などを確認します。
なぜ事前調査が必要なのでしょうか。
長期修繕計画では工事時期や予算を予測しますが、実際にどこまで劣化しているかは現物を見なければ分からないからです。
想定より劣化が少なければ、工事内容を調整できる場合があります。
逆に想定以上に傷んでいれば、追加工事が必要になることもあります。
つまり、
長期修繕計画は未来予測、建物診断は現在の健康診断
と考えると分かりやすいでしょう。
大規模修繕では「予定外の費用」が出ることもある
工事が始まり、足場を組んで外壁を詳しく確認すると、
予想以上にタイルが浮いていた。
コンクリート補修箇所が多かった。
下地の劣化が進んでいた。
といったことが分かる場合があります。
すると当初予定していた工事費より高くなる可能性があります。
これはマンション管理の難しい部分です。
工事前にできるだけ調査していても、すべてを完全に把握できるとは限りません。
そのため修繕積立金には、
「見積もりぴったりのお金だけあればいい」
というわけではありません。
ある程度の変化にも対応できる資金計画が重要になります。
工事費が高くなると修繕積立金にも影響する
近年は、建設資材や人件費などの変化もマンション修繕に影響します。
30年前に作った長期修繕計画の工事費が、そのまま現在も通用するとは限りません。
国土交通省は長期修繕計画について、工事価格や物価など不確定な要素を含むため、5年程度ごとに見直す必要があるとしています。
これは第2回で取り上げた修繕積立金ともつながります。
積立金が計画どおり集まっていても、
工事費の前提そのものが古ければ資金不足になる可能性がある
ということです。
大規模修繕には住民の合意形成も必要
大規模修繕は、管理会社や工事会社が勝手に決めて行うものではありません。
管理組合が、
工事の必要性を検討する。
施工会社を選ぶ。
工事内容を決める。
費用を確認する。
総会などで意思決定する。
といったプロセスを進めます。
マンションには数十人、数百人という所有者がいることがあります。
当然、
もっと工事を充実させたい。
できるだけ費用を抑えたい。
今回は最低限でいい。
将来を考えて設備も更新したい。
など、考え方が違うこともあります。
だからマンション管理では、
建物を直す技術だけでなく、所有者同士で意思決定できること
も重要になります。
修繕工事の「安さ」だけで施工会社を選べばいい?
大規模修繕には高額な費用がかかります。
そのため、
「一番安い会社に頼めばいい」
と思うかもしれません。
しかし修繕工事では、
工事内容。
使用する材料。
保証。
施工体制。
工事監理。
追加工事の考え方。
なども比較する必要があります。
見積金額が違えば、そもそも同じ工事内容なのかを確認する必要があります。
マンション管理では、
工事価格だけでなく「その金額で何をするのか」
を見ることが重要です。
これは中古マンション購入時にも同じです。
大規模修繕に1億円かかったという数字だけでは、その工事が高かったのか安かったのかは判断できません。
大規模修繕中は生活にもかなり影響する
実際に住んでいる人にとって、大規模修繕は数カ月にわたる大きなイベントになることがあります。
足場が設置される。
窓の近くを作業員が通る。
工事音がする。
洗濯物を干せない日がある。
バルコニーを使えない。
塗料などのにおいがする。
日中でも室内が暗く感じる。
といったことがあります。
マンションを賃貸している場合は、入居者への説明も重要です。
投資物件なら、
大規模修繕がいつ予定されているか
を知っておくことで、入居者対応や所有期間の計画を考えやすくなります。
大規模修繕をするとマンション価格は上がる?
ここも気になるポイントでしょう。
大規模修繕をしたからといって、
「物件価格が必ず上がる」
とは言えません。
大規模修繕は、本来必要な維持管理です。
しかし、
外壁が劣化している。
防水に問題がある。
共用部分が傷んでいる。
という状態を放置するより、適切に修繕しているマンションのほうが購入者に安心感を与える可能性があります。
つまり大規模修繕は、
価値を急激に高めるというより、建物の状態を維持し、価値の低下を抑えるための工事
と考えたほうが自然です。
中古マンションを買うなら「次の修繕時期」を確認する
中古マンション購入時には、
過去に大規模修繕をしたか。
だけでなく、
次はいつなのか
を確認することが重要です。
たとえば、
築13年で、まだ一度も大規模修繕をしていない。
築25年で、次回工事が翌年に予定されている。
築35年で、配管更新も同時に検討している。
では、購入後の状況が違います。
そこで確認したいのが、
長期修繕計画。
修繕履歴。
総会議事録。
修繕積立金残高。
工事予定。
です。
中古マンションを購入するということは、
過去の修繕履歴だけでなく、未来の工事予定も引き継ぐ
ことなのです。
大規模修繕を見れば「管理組合の力」も分かる
大規模修繕は、マンション管理組合にとって大きな仕事です。
何年も前から準備する。
建物を調査する。
予算を考える。
施工会社を選ぶ。
住民へ説明する。
工事を実施する。
そして次の修繕へ備える。
これをきちんと進められるマンションは、管理組合が一定程度機能している可能性があります。
逆に、
必要な修繕が何年も先送りされている。
計画が更新されていない。
資金不足が分かっているのに対策できない。
という状態なら注意が必要です。
大規模修繕は単なる工事ではなく、
そのマンションの管理能力が表れる大きなイベント
ともいえるでしょう。
まとめ
「マンションは管理で選ぶ」第4回は、大規模修繕工事について取り上げました。
マンション全体を覆う足場とシート。
その中では、
外壁補修。
タイル補修。
シーリング。
屋上防水。
バルコニー防水。
鉄部塗装。
など、建物を長く使うためのさまざまな工事が行われています。
国土交通省の長期修繕計画では、屋根防水や外壁だけでなく、給排水設備、エレベーター、立体駐車場なども長期的に修繕・更新を考える対象になっています。
つまりマンションは、
一度建てれば数十年間そのまま使える建物ではありません。
定期的に点検し、必要な部分へお金をかけて維持していく必要があります。
そして中古マンションを見るときは、
「大規模修繕済み」
という言葉だけで安心するのではなく、
いつ行ったか。
何を修繕したか。
次回はいつか。
今後どんな設備更新があるか。
積立金はいくら残っているか。
まで確認することが重要です。
第2回で見た修繕積立金。
第3回で見た築年数。
そして今回の大規模修繕。
すべてはつながっています。
古くなること自体が問題なのではなく、古くなる建物に対して必要な修繕を続けられるか。
それが、長く価値を維持するマンションを考えるうえで重要なポイントです。
次回、第5回は、
「修繕積立金が足りないとどうなる?マンションで起きる『お金の問題』」
をテーマにします。
大規模修繕をしたい。
しかし積立金が足りない。
そんなとき管理組合はどうするのでしょうか。
修繕積立金の値上げ。
一時金の徴収。
金融機関からの借入れ。
工事延期。
工事内容の縮小。
そして、住民間の合意形成。
次回は、**マンション管理で避けて通れない「お金が足りないときの現実」**を詳しく見ていきます。
引用元・参考元
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- 国土交通省「マンション管理に関する各種ガイドライン等」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」

