「東京でマンションを買うのは高い」
そう感じている人は多いだろう。
しかし現在の価格を見ると、「高い」という言葉だけでは実感しにくい水準まで上昇している。
東京カンテイによると、2026年8月の東京23区における中古マンションの70㎡換算価格は、
1億2,677万円
となった。
前月比では0.4%下落し、3カ月連続のマイナスとなったものの、それでも70㎡程度の中古マンションが平均的な指標で1億円を大きく超える水準にある。東京都全体でも70㎡換算価格は1億1,274万円だった。
では、この金額は私たちの収入と比べるとどれほど大きいのだろうか。
さらに約50年前、マンションはいくらで買えたのだろうか。
今回は、
マンション価格
と
給与
を約50年前までさかのぼり、「家を買うために必要な年収何年分なのか」という視点から東京のマンション高騰を考えてみる。
まず「1億2,677万円」は何の数字なのか
最初に注意したいのは、1億2,677万円という数字の意味である。
これは、
東京23区で実際に売買されたすべての中古マンションの単純平均価格
ではない。
東京カンテイが毎月公表している、
中古マンション70㎡換算価格
である。
マンションは40㎡の1LDKもあれば、100㎡を超える大型住戸もある。
そのまま平均すると、売り出される住戸の広さによって数字が大きく変わってしまう。
そこで面積を70㎡にそろえて価格水準を比較している。
東京カンテイ自身も、この指標について、坪単価ではなく70㎡に換算することで中古マンション価格を実感しやすくするものとしている。
したがって、
「東京23区の中古マンションなら何でも1億2,677万円する」
という意味ではない。
築年数、駅距離、所在区、階数、眺望、管理状態などによって価格差は非常に大きい。
それでも、東京23区の中古マンション市場が「1億円」という大台を超える価格帯まで上昇していることを示すには、非常にインパクトのある数字である。
新築マンションはすでに平均1億3,000万円超
高いのは中古だけではない。
不動産経済研究所によると、2025年の首都圏新築分譲マンションの戸当たり平均価格は、
9,182万円
だった。
さらに東京23区に限れば、
1億3,613万円
である。
2025年の東京23区は前年比21.8%上昇しており、1億円を大きく上回った。
つまり現在の東京23区では、
新築は平均1億3,000万円台、中古の70㎡換算価格も1億2,000万円台
という状態になっている。
「一部の超高級マンションだけが1億円」という時代から、マーケット全体の価格指標そのものが億単位へ近づいているのである。
では約50年前、マンションはいくらだったのか
ここで時計を約50年前まで戻してみよう。
1976年。
昭和51年である。
まだ携帯電話もインターネットもなく、東京の街には現在ほど高層マンションが並んでいなかった時代だ。
不動産経済研究所は、1973年から首都圏の新築分譲マンションについて長期の供給戸数・平均価格データを公表している。
そのデータによると、1976年の首都圏新築マンション平均価格は、
1,630万円
だった。
一方、2025年は、
9,182万円。
単純比較すると、
約5.6倍
になっている。
| 年 | 首都圏新築マンション平均価格 |
|---|---|
| 1976年 | 1,630万円 |
| 2025年 | 9,182万円 |
| 上昇倍率 | 約5.6倍 |
もちろん、50年間でマンションの広さや設備、立地構成、品質なども変化している。
そのため、単純に「同じマンションが5.6倍になった」と解釈することはできない。
それでも、住宅取得に必要な金額が大幅に上昇してきたことは分かる。
では給料も5.6倍になったのか
マンション価格が5.6倍になっていても、給料も同じくらい増えていれば問題は小さい。
例えば、
マンション価格 5倍
年収 5倍
なら、家計から見た負担感は大きく変わらない可能性がある。
では実際の給与はどうだったのだろうか。
国税庁の「民間給与実態統計調査」の長期データによると、1976年の平均給与はおよそ、
229万円
だった。
当時は給与そのものが急速に上昇していた時代で、1966年の平均給与約55万円から、1976年には約229万円まで増えている。
一方、最新の2025年分調査では、1年を通じて勤務した民間給与所得者の平均給与は、
487万円
だった。
男性は597万円、女性は342万円である。
1976年から2025年を比較すると、
229万円 → 487万円
なので、平均給与は約、
2.1倍
になったことになる。
マンション価格は約5.6倍。
平均給与は約2.1倍。
ここに、現在「マンションが買いにくくなった」と感じる大きな理由の一つが見えてくる。
約50年間でマンション価格と給与の伸びには大きな差
分かりやすく並べるとこうなる。
| 項目 | 約50年前 | 現在 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 首都圏新築マンション平均価格 | 1,630万円(1976年) | 9,182万円(2025年) | 約5.6倍 |
| 民間平均給与 | 約229万円(1976年) | 487万円(2025年) | 約2.1倍 |
※マンション価格は首都圏新築分譲マンション、給与は全国の民間給与所得者であり、地域・調査対象が異なる。住宅取得負担を厳密に示す指数ではなく、長期的な変化を見るための参考比較である。
ポイントは、
給料が上がっていないわけではない
ということである。
約50年間で平均給与は2倍以上になっている。
しかし、
マンション価格の上昇速度の方がはるかに速かった。
その結果、給与から見た住宅価格の距離が広がっているのである。
1976年は平均年収「約7年分」だった
では、マンション価格を平均年収で割ってみよう。
1976年は、
1,630万円 ÷ 229万円
なので、
約7.1年分
となる。
もちろん年収をすべて住宅購入に使えるわけではないため、「7年間働けば買えた」という意味ではない。
あくまで住宅価格を年収で割った単純な倍率である。
それでも、価格水準と所得水準の関係を見るには分かりやすい。
現在は平均年収「約19年分」
同じ計算を2025年で行う。
首都圏新築マンション平均価格は9,182万円。
平均給与は487万円。
9,182万円 ÷ 487万円 = 約18.9
つまり、
平均年収の約19年分
である。
約50年前は約7年分。
現在は約19年分。
比較条件には地域差などがあるため厳密な住宅負担率ではないものの、
マンション価格が給与から大きく離れてきた
ことは十分に読み取れる。
東京23区の1億2,677万円は平均年収の何年分?
では今回のタイトルにもなっている、
1億2,677万円
を東京都の給与水準と比較するとどうなるだろうか。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の東京都データを基に、毎月の給与と年間賞与から年収換算した集計では、
男性:約653.8万円
女性:約457.8万円
という水準になる。政府統計では都道府県・性別・給与・年間賞与などのデータが公表されている。
この金額で東京23区の中古マンション70㎡換算価格1億2,677万円を割ると、
男性:1億2,677万円 ÷ 653.8万円 = 約19.4年分
女性:1億2,677万円 ÷ 457.8万円 = 約27.7年分
となる。
| 比較 | 年収 | 1億2,677万円は年収何年分? |
|---|---|---|
| 東京都・男性 | 約653.8万円 | 約19.4年分 |
| 東京都・女性 | 約457.8万円 | 約27.7年分 |
東京都は全国でも給与水準の高い地域である。
それでも70㎡程度の中古マンション価格が、男性平均年収の約19年分に相当するのである。
男女2人の年収を足しても約11.4年分
では共働きならどうだろうか。
単純に、
653.8万円 + 457.8万円
とすると、
世帯年収1,111.6万円
になる。
1億2,677万円をこれで割ると、
約11.4年分
である。
年収1,000万円を超える世帯であっても、東京23区の70㎡中古マンション価格は年収の10倍を超える計算になる。
もちろん実際の夫婦の収入はさまざまであり、男女別平均を足した数字が「平均的な夫婦の世帯年収」を意味するわけではない。
それでも、
共働きによる収入合算が住宅購入で重要になっている理由
はイメージしやすいだろう。
第7回では、こうした状況で利用が増えているペアローンについて詳しく取り上げる予定である。
「年収19年分」と「19年ローン」はまったく違う
ここは注意したい。
物件価格が年収19年分だからといって、
19年間ローンを返せば買える
という意味ではない。
年収653.8万円がそのまま手元に残るわけではないからだ。
給与からは、
所得税
住民税
社会保険料
などが差し引かれる。
さらに、
食費
光熱費
教育費
通信費
保険料
自動車費
老後資金
など生活に必要な支出がある。
住宅を購入すれば、
管理費
修繕積立金
固定資産税
火災・地震保険
なども発生する。
さらに住宅ローンには金利がかかる。
したがって「年収何年分」という数字は、ローン返済期間ではなく、
住宅価格が所得に対してどれほど大きいのかを見る指標
として考える必要がある。
35年ローンでも「1億円」は消えない
現在、住宅ローンでは35年返済が一般的である。
しかし価格が1億円を超えれば、35年という長い時間を使っても毎月の返済額は大きくなる。
例えば1億円を35年間、金利1%で元利均等返済すると、単純計算で月々の返済は約28万円になる。
金利が2%なら約33万円。
3%なら約38万円まで増える。
しかもこれは管理費や修繕積立金、固定資産税などを含んでいない。
東京の住宅価格上昇は、
「頭金をどれだけ用意するか」だけではなく、「ローンを何年間組むのか」
という問題にまで影響し始めている。
その結果、近年は最長50年の住宅ローンも選択肢として注目されるようになっている。
このテーマは第6回で詳しく見ていく。
なぜ給料よりマンション価格の方が上がったのか
では、なぜマンション価格は給与以上のペースで上昇したのだろうか。
一つの理由だけでは説明できない。
背景には、
土地価格の上昇
建築資材価格の上昇
建設業の人件費上昇
都心部の用地不足
新築マンション供給戸数の減少
駅近・都心など好立地への供給集中
高額なタワーマンションや高級物件の増加
など複数の要因が重なっている。
実際、2025年の首都圏新築マンション供給戸数は2万1,962戸で、前年比4.5%減少した。一方で平均価格は9,182万円まで上昇している。東京23区の供給戸数も8,064戸にとどまった。
つまり、
高くなっただけでなく、新しく供給されるマンションそのものが少なくなっている
のである。
第3回では、土地・建築費・人件費の変化を50年間で比較し、価格高騰の理由をさらに掘り下げる。
中古マンションまで高くなる理由
「新築は建築費が上がっているから高いのは分かる。でも中古まで高くなるのはなぜ?」
という疑問もあるだろう。
新築価格が大きく上昇すると、新築を諦めた購入希望者が中古市場へ流れる。
一方、都心の中古マンションは供給できる戸数に限りがある。
新築価格との比較で、
「中古でもこの価格なら売れる」
という市場が形成されれば、中古価格も上昇する。
実際、2026年8月の東京23区中古70㎡換算価格は1億2,677万円で、新築だけでなく中古市場でも非常に高い水準が続いている。
第5回では、
「中古なのに1億円を超えるのはなぜか」
をテーマに詳しく解説する。
ただし2026年8月は価格が少し下がっている
ここも重要である。
「東京のマンションは上がり続けている」
とだけ書くと、現在の市場を正しく捉えられない。
東京23区の中古マンション70㎡換算価格は2026年5月に1億2,849万円まで上昇したあと、
6月 1億2,741万円
7月 1億2,724万円
8月 1億2,677万円
と3カ月連続で下落している。東京カンテイも都心部では流通戸数や価格改定の動きに変化が出ていると指摘している。
つまり、
高値圏にあることと、今後も一直線に値上がりすることは別問題
である。
価格が高くなりすぎれば購入できる人は減り、売り手が価格を下げる場面も出てくる。
不動産は常に上がる資産ではない。
「買う側」と「持っている側」では価格上昇の意味が違う
ここで視点を変えてみよう。
マンション価格が上昇すると、これから住宅を購入しようとしている人にとっては、
「家が買いにくくなった」
というニュースになる。
しかし、すでに不動産を所有している人から見ると意味は変わる。
例えば4,000万円で購入したマンションが、将来5,000万円で売却できる市場になれば、物件の資産価値は上昇したことになる。
もちろん実際の売却価格は、
築年数
立地
管理状態
需給
金利
市況
などによって変わる。
それでも、
不動産価格の上昇は「買う側の負担増」であると同時に、「持つ側の資産価値上昇」になり得る
という二つの側面を持っている。
50年前にマンションを「買った人」から見ると景色が変わる
1976年の首都圏新築マンション平均価格は1,630万円だった。
現在のマンションと同一条件ではないため、単純に現在価格と結び付けることはできない。
しかし50年間という長い時間で見ると、
住宅価格そのものが大きく上昇してきた
という事実はある。
ここで重要なのは、
「50年前の人は安く家を買えてうらやましい」
だけではない。
別の見方をすれば、
その時代に不動産という資産を取得し、長期間保有してきた人は、物価や地価の上昇とともに資産を持ち続けてきた
とも考えられる。
現金だけを持っている場合と、
不動産のような実物資産を持っている場合では、インフレや資産価格上昇の影響が異なるのである。
「住むための家」から「保有する資産」という視点へ
一般的に住宅というと、
自分や家族が住む場所
として考える。
もちろん、それが住宅本来の役割である。
しかし不動産にはもう一つ、
資産
という性格がある。
自宅であれば、住宅ローンを返済しながら所有権を取得していく。
投資用不動産であれば、入居者から賃料を受け取りながら資産を保有する。
マンション価格が大きく上昇している現在だからこそ、
「いくらなら住宅を買えるか」だけでなく、「将来に向けてどのような資産を持つのか」
という視点も重要になってくる。
不動産価格高騰は「不動産投資」を考えるきっかけにもなる
東京のマンションが1億円を超える時代になると、
「もう不動産には手を出さない方がいい」
と感じる人もいるだろう。
しかし、不動産投資という観点では別の考え方もある。
不動産価格や賃料が長期的に上昇する地域で不動産を保有できれば、
家賃収入を得ながら資産を持つ
という選択肢になるからである。
また不動産投資には、株式や投資信託とは異なり、条件を満たせば金融機関から融資を受けて物件を取得できるという特徴もある。
自己資金だけで数千万円の資産を購入するのではなく、
融資を活用しながら資産形成を行える可能性がある
点は、不動産投資特有の特徴である。
マンション価格の高騰を、
「住宅が買えなくなった」
という側面だけで見るのではなく、
「不動産を持つことの意味が大きくなっている」
と捉えることもできる。
ただし「不動産が上がっているから買えば儲かる」ではない
ここは最も重要な点である。
過去50年間でマンション価格が上昇したからといって、
今後50年間も同じペースで上がる保証はない。
実際、2026年夏の東京23区中古マンション価格には調整の動きもみられる。
不動産投資には、
金利上昇
空室
家賃下落
管理費・修繕費の増加
設備故障
災害
税金
売却価格下落
といったリスクがある。
物件価格が高い時期に割高な不動産を購入すれば、価格が下落した際にローン残高が売却価格を上回る可能性もある。
したがって、
「不動産価格が上がっているから投資する」
のではなく、
立地
賃貸需要
購入価格
家賃
融資条件
将来の売却可能性
まで含めて判断する必要がある。
重要なのは、
値上がりを当てることではなく、長期間保有できる資産かどうかを見極めること
である。
約50年の数字を見ると「資産を持つ意味」が見えてくる
1976年から2025年までに、
首都圏新築マンション平均価格は、
1,630万円 → 9,182万円
と約5.6倍になった。
一方、民間平均給与は、
約229万円 → 487万円
と約2.1倍である。
この差が、
「働いて貯金してから家を買う」ことを難しくした一因
と考えられる。
そして同時に、
給与という「労働から得る収入」だけでなく、
不動産などの「資産を保有する」
という考え方が注目される理由の一つでもある。
給与が2倍になる間に、資産価格が5倍になるのであれば、
収入だけを増やすことと、資産を持つことでは、長期的な結果が大きく異なる可能性がある。
もちろん、どの不動産でも値上がりするわけではない。
だからこそ、これからの資産形成では、
「不動産を買うか、買わないか」
だけではなく、
「どの不動産を、いくらで、どのように持つか」
が重要になるのである。
まとめ
2026年8月、東京23区の中古マンション70㎡換算価格は、
1億2,677万円
となった。
3カ月連続で価格は下落しているものの、依然として1億円を大幅に超える高い水準である。
新築マンションも高い。
2025年の平均価格は、
首都圏:9,182万円
東京23区:1億3,613万円
だった。
約50年前の1976年、首都圏の新築マンション平均価格は1,630万円。
2025年までに約、
5.6倍
になった。
一方、民間平均給与は、
1976年 約229万円
2025年 487万円
で、約、
2.1倍
である。
参考比較ではあるものの、マンション価格を平均給与で割ると、
1976年:約7.1年分
2025年:約18.9年分
まで拡大する。
さらに現在の東京23区中古マンション70㎡換算価格1億2,677万円を東京都の男女別年収の目安と比較すると、
男性:約19.4年分
女性:約27.7年分
となる。
「マンションが高くなった」というより、
給与だけではマンション価格に追いつきにくくなった
と表現した方が、現在の状況に近い。
しかし価格上昇にはもう一つの側面がある。
これから買う人には負担増でも、
不動産を保有している人にとっては資産価値の上昇につながる可能性がある。
そのため住宅価格の高騰を考えるときは、
「家を買えるか」
だけでなく、
「資産として不動産を持つことをどう考えるか」
という視点も重要になる。
不動産投資も、その選択肢の一つである。
ただし、価格上昇が将来も続く保証はない。
金利、空室、修繕、賃料、購入価格、売却価格などを冷静に確認し、長期的に保有できる物件かどうかを判断する必要がある。
東京のマンション価格が1億円を超える時代。
問われているのは単に、
「家が高すぎる」
という問題だけではない。
「給与を得るだけでなく、どのような資産を持つのか」
という資産形成そのものの考え方なのかもしれない。
次回は、
1億円のマンションを買うには年収いくら必要?住宅ローンから逆算【東京のマンションはなぜ買えなくなった? 第2回】
をテーマに、1億円の住宅ローンを35年・40年・50年で組んだ場合の月々返済額や、金融機関が見る返済負担率から必要年収を具体的に計算する。
引用元・参考元
- 東京カンテイ「2026年8月 中古マンション70㎡価格月別推移」
- 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年」
- 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 1973年~2025年」
- 国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」
- 国税庁「民間給与実態統計調査結果・長期時系列」
- e-Stat「賃金構造基本統計調査・都道府県別」


