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【世界の不動産投資 第3回】シンガポールはなぜ不動産投資に厳しい?外国人購入と高額な税金の理由

2026/09/11
不動産投資コラム

高層ビルが並び、世界中の企業や富裕層が集まるシンガポール。

金融、物流、観光、テクノロジーなど多くの分野で国際的な存在感を持ち、不動産市場にも海外から大きな関心が寄せられています。

ところが、外国人がシンガポールの住宅を買おうとすると、日本ではあまり考えられないほど大きな税負担が発生する場合があります。

2026年現在、一般的な外国人が住宅を購入する際に課されるAdditional Buyer’s Stamp Duty、いわゆるABSDの税率は**60%**です。

なぜ、世界中から人と資金を集める国が、住宅投資にはこれほど厳しいのでしょうか。

「世界の不動産投資」第3回は、シンガポールの住宅市場から、不動産価格と国民の住まいを政府がどのようにコントロールしているのかを見ていきます。

シンガポールの不動産は「自由市場」だけで動いていない

シンガポールというと、世界有数のビジネス都市というイメージがあります。

海外企業を積極的に呼び込み、世界中から資本や人材が集まっています。

その一方で、住宅市場については政府が非常に積極的に関与しています。

住宅用地の供給。

公共住宅の建設。

購入資格。

住宅ローン。

不動産購入時の税金。

外国人による土地付き住宅の取得。

こうした部分にさまざまな制度があります。

つまりシンガポールは、

「経済は国際的に開かれているが、住宅については市場に任せきりにしない国」

と見ることができます。

ここがロンドンとの大きな違いです。

外国人が住宅を買うとABSDは60%

最も分かりやすいのが、住宅購入時の税金です。

シンガポールでは住宅を購入すると、通常のBuyer’s Stamp Duty、BSDに加えて、購入者の属性や所有する住宅数によってABSDが課されます。

2026年現在、シンガポール国民が1軒目の住宅を購入する場合、ABSDは原則としてかかりません。

一方、シンガポール永住者が1軒目を購入する場合は5%。

そして一般的な外国人が住宅を購入する場合は、**1軒目から60%**です。

たとえば外国人が200万シンガポールドルの住宅を購入したとします。

ABSDだけで、

200万シンガポールドル × 60%=120万シンガポールドル

になります。

実際、シンガポール内国歳入庁(IRAS)も、200万シンガポールドルの住宅を外国人が購入した場合、ABSDが120万シンガポールドルになる例を示しています。

しかもこれはABSDだけの話です。

通常のBSDやその他の費用も別途考える必要があります。

日本人の感覚からすると、かなり大きな取得コストです。

なぜ外国人にこれほど高い税金をかけるのか

ここで疑問が出てきます。

世界中から企業や富裕層を呼び込んでいるシンガポールが、なぜ住宅購入についてはこれほど厳しいのでしょうか。

大きな理由の一つは、住宅を単なる投資商品ではなく、国民が生活するための重要な社会基盤として扱っているからです。

シンガポールは国土が非常に限られています。

住宅を建てられる土地にも限界があります。

そこへ海外から大量の投資資金が流入し、住宅価格が急上昇すれば、国内で生活する人が住宅を取得しにくくなる可能性があります。

そこで政府は、税制や住宅供給などを通じて市場の過熱を抑えています。

ABSDもそのための代表的な政策の一つです。

つまり、

「外国人を排除したい」

という単純な話ではなく、

限られた住宅を誰がどのように取得するのかを政策的に調整している

と考えたほうが実態に近いでしょう。

シンガポール国民でも2軒目から税負担が増える

厳しいのは外国人だけではありません。

シンガポール国民が2軒目の住宅を購入する場合には20%、3軒目以降では30%のABSDが課されます。

永住者の場合は1軒目が5%、2軒目が30%、3軒目以降が35%です。

この制度を見ると、政府の考え方が分かります。

1軒目の自宅取得には比較的配慮する。

一方で、2軒目、3軒目と住宅を買い増す場合には税負担を重くする。

つまり住宅を、

「住むための不動産」と「投資・追加取得する不動産」

である程度区別しているのです。

日本では個人が2軒目、3軒目のマンションを購入したからといって、シンガポールと同じようなABSDがかかるわけではありません。

ここにも大きな制度の違いがあります。

シンガポールを理解する鍵は「HDB」

シンガポールの住宅市場を理解するうえで欠かせないのが、HDBです。

HDBとはHousing & Development Board、住宅開発庁のことで、公共住宅の供給を担っています。

日本で「公共住宅」と聞くと、賃貸住宅を想像する人も多いかもしれません。

しかしシンガポールのHDB住宅は、多くの場合、一定の条件を満たした住民が購入して居住する住宅です。

購入資格には国籍や家族構成などの条件があります。

たとえばHDBの新築住宅や一部の再販住宅では、シンガポール国民を中心とした資格要件が設定されています。

永住者のみの世帯が一部の中古HDB住宅を購入する場合にも、原則として全員が永住資格を一定期間保持している必要があります。

つまりHDBは、一般的な投資用コンドミニアムとは位置づけが違います。

政府が国民の住宅取得を支えるための住宅政策の中心なのです。

HDBは基本的に「投資商品」ではなく住むための住宅

この考え方はHDBの購入条件にも表れています。

HDBの再販住宅についても、購入者には居住に関する条件があります。

HDBの規定では、購入した住宅は原則として所有者と家族が実際に居住する住宅として扱われます。

つまり、

「安く買ってすぐ貸す」

「複数戸を買って投資用に回す」

ということを自由に行える市場ではありません。

購入資格、最低居住期間、他の住宅所有との関係など、細かなルールがあります。

この点は、日本の中古マンション投資とはかなり違います。

シンガポールでは、

公共住宅と投資用になり得る民間住宅を制度上かなり明確に分けている

ことが特徴です。

外国人が買いやすいのは主にコンドミニアム

では外国人はシンガポールの住宅を買えないのでしょうか。

そうではありません。

外国人でも、一定のコンドミニアムなどは政府の個別承認を受けずに購入できます。

Singapore Land Authorityによると、外国人はコンドミニアムの区分所有住戸やフラットなど、一定の物件を原則として事前承認なしで取得できます。

一方で、

戸建て住宅。

テラスハウス。

バンガロー。

住宅用土地。

一部の土地付き住宅。

などについては、外国人が購入する場合、原則として政府の承認が必要です。

つまりシンガポールでは、

「外国人も不動産を買える。しかし何でも自由に買えるわけではない」

という仕組みになっています。

日本との違いが非常に分かりやすい部分です。

土地付き住宅の購入はさらにハードルが高い

外国人が土地付き住宅を購入する場合、Singapore Land AuthorityのLand Dealings Approval Unitによる審査を受けます。

公式案内では、審査において永住者としての居住年数や、シンガポールへの経済的な貢献などが考慮されるとされています。

つまり、

「お金があるから買える」

とは限りません。

シンガポールでは土地そのものが非常に貴重です。

そのため、土地付き住宅についてはコンドミニアム以上に慎重な管理が行われています。

不動産投資を考えるとき、「所有権があるかどうか」だけでなく、

そもそも誰が購入できるのか

から確認しなければならない市場なのです。

2026年も住宅価格は上昇している

規制が強いからといって、住宅価格が下がり続けているわけではありません。

Urban Redevelopment Authority、URAによると、2026年第2四半期の民間住宅価格指数は前期比0.5%上昇しました。

第1四半期の0.9%上昇から伸びは鈍化したものの、2026年上半期では累計1.4%上昇しています。

ここは非常に興味深いところです。

シンガポール政府は、

税金。

住宅ローン規制。

住宅供給。

土地供給。

などを通じて市場へ介入しています。

それでも、住宅需要がある限り価格は動きます。

つまり規制は、

「住宅価格を必ず下げる」

ためのものではなく、

急激な価格上昇や過度な投機を抑えながら、市場を安定させる

という役割を持っています。

政府は住宅を「供給する量」までコントロールする

シンガポールの特徴は、税制だけではありません。

政府自身が土地供給を通じて、民間住宅の供給にも大きく関与しています。

URAによると、2026年後半のGovernment Land Sales Programmeでは、Confirmed Listだけで4,745戸分の民間住宅用地を供給する予定です。

2026年通年では9,320戸となり、過去10年間の年間平均を50%以上上回る水準です。

さらに今後数年間では、エグゼクティブ・コンドミニアムを含め約60,600戸の民間住宅が完成する見込みとされています。

これは不動産投資にとって非常に重要です。

住宅価格は需要だけで決まるわけではありません。

どれだけ新しい住宅が供給されるのか

によっても変わります。

シンガポールでは、その供給量について政府が非常に大きな役割を持っています。

家賃も上昇しているが、空室も見る必要がある

投資家にとってもう一つ気になるのが家賃です。

URAによると、2026年第2四半期の民間住宅賃料指数は前期比0.7%上昇しました。

一見すると、賃貸市場は強いように見えます。

しかし、不動産投資では家賃だけを見てはいけません。

2026年第2四半期末の完成済み民間住宅の空室率は6.4%でした。

地域別では、

中心部のCore Central Regionが8.3%。

Rest of Central Regionが6.1%。

Outside Central Regionが5.6%。

となっています。

つまり、

「シンガポールだから借り手が必ずいる」

というわけではありません。

同じシンガポールでもエリアによって空室状況は異なります。

これはアメリカやロンドンと同じです。

国より都市。

都市よりエリア。

そして最終的には物件そのものを見る必要があります。

世界の富裕層が集まる国でも住宅投資を抑える理由

シンガポールには世界中から企業や富裕層が集まっています。

それなら住宅投資も自由にすれば、さらに海外資金が流入するのではないか。

そう考えることもできます。

しかし、住宅価格が急激に上昇すれば、国内で働き生活する人が住宅を取得しにくくなります。

住宅は株式や債券とは違います。

投資商品であると同時に、

誰かが実際に生活する場所

です。

シンガポールの住宅政策を見ると、この点を非常に強く意識していることが分かります。

経済成長を続けたい。

海外企業も呼び込みたい。

しかし国民の住宅取得環境も守りたい。

このバランスを取るために、税制や住宅供給を利用しているのです。

日本との最大の違いは「外国人購入への考え方」

ここで日本と比較してみましょう。

日本では、外国人だからという理由だけで住宅購入時に60%の追加税がかかる制度はありません。

また、一般的なマンションや土地について、外国籍だから購入できないという全国一律の制度も基本的にはありません。

一方のシンガポールでは、

外国人が一般住宅を購入するとABSD60%。

土地付き住宅は原則として政府承認が必要。

HDB住宅には購入資格がある。

というように、住宅市場へのアクセス自体を政策によって調整しています。

これは最終回で日本の不動産市場を考えるとき、非常に重要な比較材料になります。

日本で今後、外国人による不動産購入をどう考えるのか。

住宅価格上昇に対してどのような政策を取るのか。

世界を見ると、一つの答えだけではないことが分かります。

「税金が高いから投資できない」で終わらせない

シンガポールの不動産市場を見ると、どうしてもABSD60%という数字に注目が集まります。

しかし、本当に重要なのはその背景です。

なぜ税金が高いのか。

なぜ住宅供給を政府が調整するのか。

なぜ国民と外国人で条件を変えるのか。

そこを見ると、シンガポールの不動産政策の考え方が見えてきます。

不動産価格を市場だけに任せるのではなく、

住宅を国民生活に必要なインフラとして管理する

という考え方です。

海外不動産を見る面白さは、物件価格や利回りを比較するだけではありません。

その国が「住宅とは何か」をどう考えているのかまで見えてくることにあります。

まとめ

「世界の不動産投資」第3回は、シンガポールを取り上げました。

シンガポールでは2026年現在、一般的な外国人が住宅を購入する場合、原則として60%のABSDが課されます。

一方、シンガポール国民の1軒目にはABSDが課されず、2軒目、3軒目と住宅を増やすにつれて税率が高くなります。

ここから見えてくるのは、

「住宅を投資商品にしすぎない」

という政策姿勢です。

さらにHDBという公共住宅制度があり、外国人による土地付き住宅取得には原則として政府承認が必要です。

それでも民間住宅市場は動いています。

2026年第2四半期には民間住宅価格が前期比0.5%上昇し、賃料も0.7%上昇しました。

つまりシンガポールは、

「規制が強いから市場が動かない国」

ではありません。

むしろ、

市場を動かしながら、政府が価格・供給・投資需要のバランスを取り続けている国

と見ることができます。

世界の不動産投資を考えるとき、「利回りは何%か」だけを比べても十分ではありません。

誰が買えるのか。

何軒まで買いやすいのか。

外国人にはどんな条件があるのか。

政府は住宅価格の上昇をどう考えているのか。

こうした制度まで理解して初めて、その国の不動産市場が見えてきます。

そしてシンガポールと比較すると、日本の住宅市場が外国人に対してかなり異なる仕組みを持っていることも分かります。

これはシリーズ最終回の「日本」を考えるときに、改めて詳しく取り上げたいポイントです。

次回、第4回は香港です。

シンガポールと同じように国土が限られ、超高層住宅が立ち並ぶ香港ですが、その住宅価格を生み出している仕組みはまた異なります。

第4回は、

「香港の住宅はなぜ高い?限られた土地と超高層住宅が生んだ不動産市場」

をテーマに、土地供給と住宅価格の関係を見ていきます。

引用元・参考元

  • Inland Revenue Authority of Singapore(IRAS)「Additional Buyer’s Stamp Duty(ABSD)」
  • Urban Redevelopment Authority(URA)「Release of 2nd Quarter 2026 real estate statistics」
  • Singapore Land Authority(SLA)「Foreign ownership of property」
  • Housing & Development Board(HDB)「Couples and Families」
  • Housing & Development Board(HDB)「Terms and Conditions – Sale and Purchase of an HDB Resale Flat」

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