大きな地震のあと、自宅が倒壊していなくても「このまま住み続けて大丈夫なのか」と不安になる人は多いでしょう。
壁にひびが入った。ドアが開きにくくなった。床が傾いている気がする。水漏れが起きている。こうした変化があると、建物の安全性に問題があるのではないかと心配になります。
しかし、地震後の建物は外から見ただけでは安全性を判断できない場合があります。逆に、目立つひび割れがあるからといって、直ちに建物全体が危険とも限りません。
重要なのは、自分で確認できる範囲と、専門家の判断が必要な範囲を分けることです。
今回は、地震後に自宅へ戻ったときに確認したいポイントと、「こんな状態なら無理に住み続けない方がよい」というサインについて解説します。
まず確認するのは「家の中」ではなく建物の外側
地震後に自宅へ戻ると、すぐに室内へ入って家具や家財の被害を確認したくなるでしょう。
しかし、建物そのものに大きな被害が出ている場合には、室内へ入ること自体が危険な可能性があります。
まず安全な場所から建物全体を確認します。
建物が明らかに傾いていないか。
外壁の大きな部分が剥がれ落ちそうになっていないか。
柱や壁に大きな亀裂がないか。
屋根材や瓦が落下しそうになっていないか。
隣の建物が倒れかかっていないか。
擁壁や地盤に大きな変形がないか。
こうした異常が見られる場合には、無理に建物へ入らないことが重要です。
地震後には余震が発生する可能性があります。
最初の地震では倒壊しなかった建物でも、すでに構造が弱くなっていれば、その後の揺れによって被害が拡大することがあります。
「応急危険度判定」とは何を調べるもの?
大規模な地震が起きた地域では、自治体が「被災建築物応急危険度判定」を実施することがあります。
東京都によると、応急危険度判定は、被災した建物について倒壊や外壁・窓ガラスなどの落下による二次災害の危険性を調べるもので、区市町村が実施主体となり、専門家が地震後できるだけ速やかに判定します。結果は「危険」「要注意」「調査済」の3種類のステッカーで表示されます。 (防災東京)
一般的には、
赤色「危険」
建物へ立ち入ることが危険。
黄色「要注意」
立ち入る場合には十分な注意が必要。
緑色「調査済」
被災程度が比較的小さいと判断されたもの。
という形で示されます。 (防災東京)
ここで注意したいのは、応急危険度判定は建物の資産価値や修理費を決める制度ではないという点です。
目的は、余震などによる二次災害から人を守ることです。
「赤だから全壊」「緑だから修理不要」という意味ではありません。
「罹災証明」と「応急危険度判定」は別物
地震後の住宅では、「罹災証明書」という言葉も出てきます。
応急危険度判定と罹災証明は目的が異なります。
応急危険度判定は、
今、その建物へ入ってもよいのか
という二次災害防止のための判定です。
一方、罹災証明は、自治体が住家の被害程度を認定し、被災者支援などに利用するためのものです。
さらに保険会社による地震保険の損害認定も別の仕組みです。
地震後には似たような「判定」が複数あるため、混同しないことが重要です。
壁のひび割れは「太さだけ」で判断しない
地震後、もっとも見つけやすい被害の一つが壁のひび割れです。
室内の壁紙だけに細いひびが入る場合もあります。
一方で、コンクリート壁や柱、梁など構造に関係する部分にひびが入っている場合もあります。
注意したいのは、
「細いから大丈夫」
「太いから倒壊する」
と見た目だけで判断しないことです。
ひび割れの場所、方向、深さ、周囲の変形などによって意味が変わります。
特に、
柱や梁に大きな亀裂がある。
コンクリートが剥がれて内部の鉄筋が見えている。
壁が大きくずれている。
建物全体に変形が見られる。
といった場合には、自己判断せず専門家や管理会社などへ確認した方がよいでしょう。
ドアが開きにくくなったら要注意?
地震後に、
「玄関ドアが閉まりにくい」
「窓が急に開かなくなった」
という変化が起きることがあります。
単に建具そのものがずれただけの場合もありますが、建物が変形したことで開口部がゆがんでいる可能性もあります。
複数のドアや窓で同じような異常が起きている場合や、床の傾きなど別の症状も同時に見られる場合には注意が必要です。
特に玄関ドアが開かないと、余震や火災時に避難できなくなる可能性があります。
地震が収まったあと、安全にできる状況であれば避難経路を確保しておくことが重要です。
「床が傾いている気がする」はどう考える?
地震後に室内を歩いていて、
「なんとなく床が傾いている」
「まっすぐ歩きにくい」
と感じる場合があります。
家具がずれていたり、地震後の体調によってそう感じたりするケースもありますが、建物や地盤が実際に傾いている可能性もあります。
特に戸建てでは、
地盤沈下。
液状化。
基礎の損傷。
擁壁の変形。
などによって建物が傾くことがあります。
東京都の被災宅地危険度判定では、地震によって被災した擁壁やのり面なども対象となり、「危険宅地」「要注意宅地」「調査済宅地」の3段階で危険度を示します。 (東京都都市整備局)
建物だけでなく、その下の土地そのものが変化していないかも確認する必要があります。
マンションでは自室だけ見ても不十分
マンションの場合、自分の部屋がきれいでも建物全体に被害が出ている可能性があります。
確認したいのは、
廊下。
階段。
エントランス。
外壁。
エレベーター。
給排水設備。
機械式駐車場。
などの共用部分です。
ただし、自分で危険な場所へ近づいて確認する必要はありません。
管理会社や管理組合からの案内を確認し、共用設備が安全に利用できると分かるまでは慎重に行動します。
特に給排水管は壁や床の内部にあるため、見ただけでは損傷が分からない場合があります。
地震直後はトイレをすぐ流さない
マンションで特に注意したいのがトイレです。
前回の防災グッズ編でも紹介しましたが、地震によって排水管が損傷している場合、上階でトイレを流すことで下階から汚水があふれる可能性があります。
そのため、建物側で排水設備の安全が確認されるまでは、携帯トイレなどを利用することが重要です。
「水道が出ているからトイレも大丈夫」と判断しないようにしましょう。
マンションでは、自分の部屋だけではなく、縦につながっている配管も共同で使っているという意識が必要です。
水漏れを見つけたら、まずどこから来ているか確認する
地震後に床や壁が濡れていた場合、水道管や給湯設備などが損傷している可能性があります。
水漏れが続いている場合には、可能で安全な状況であれば止水栓を閉めます。
ただし、マンションでは共用配管からの漏水など、入居者だけでは対応できない場合があります。
その場合は管理会社や管理組合へ連絡します。
また、建物内の水道に問題がなくても、地域の水道管そのものが被害を受ければ断水する可能性があります。東京都水道局も、震災時の断水被害軽減に向けて水道管の耐震化を進めています。 (東京水道局)
災害時給水ステーションの場所も平時から確認しておくとよいでしょう。 (東京水道局)
ガス臭がしたら電気のスイッチにも触らない
地震後にガスのにおいを感じた場合は、特に注意が必要です。
東京ガスネットワークは、ガス臭がする場合には火を使用せず、換気扇や電灯などの電気スイッチにも触れないよう案内しています。可能な範囲でガス栓とメーターの元栓を閉め、窓を開けて換気し、ガス会社へ連絡するよう求めています。 (東京ガス)
「換気しよう」と思って換気扇のスイッチを入れるのは避ける必要があります。
スイッチ操作による小さな火花が着火につながる可能性があるためです。
ガス臭を感じた場合には、自己判断で設備を復旧させようとせず、関係事業者へ連絡しましょう。
地震後の写真は「片付ける前」に撮っておく
建物の安全を確保したうえで、住宅や家財に被害が出ている場合には写真や動画を残しておきましょう。
例えば、
建物全体。
外壁。
基礎。
各部屋。
ひび割れ。
壊れた家具。
家電。
水漏れ。
などです。
近くからの写真だけでなく、どの部屋のどこが壊れたのか分かるように、部屋全体の写真も撮っておくと状況を説明しやすくなります。
罹災証明や保険手続きなどで被害状況の記録が役立つ可能性があります。
危険が差し迫っていないなら、大規模に片付けたり修理したりする前に記録することを意識しておきましょう。
賃貸住宅なら勝手に大規模修理をしない
賃貸住宅の場合、地震によって壁や設備などに被害が出ても、入居者が独自に大規模な修理を進めるのは避けた方がよいでしょう。
建物そのものは大家の所有物です。
まず、
管理会社。
大家。
保険会社。
などへ連絡し、対応方法を確認します。
特に、
壁の大きな亀裂。
窓ガラス。
給湯器。
配管。
玄関ドア。
などは、貸主側で修理を手配するケースがあります。
自分で修理業者へ依頼した結果、費用負担をめぐってトラブルになることも考えられます。
分譲マンションは「専有部分」と「共用部分」を分ける
自分で所有している分譲マンションでも、すべて自分だけで修理できるわけではありません。
室内は専有部分ですが、
外壁。
廊下。
エントランス。
構造躯体。
共用配管。
などは共用部分です。
共用部分の修繕は管理組合が中心となって進めます。
例えば室内の壁にひびが見えていても、その原因が共用部分である構造躯体に関係していれば、個人だけで判断できません。
まず管理会社や管理組合へ被害を報告し、建物全体の点検状況を確認することが大切です。
「応急危険度判定で緑」なら安心して住み続けられる?
応急危険度判定で「調査済」と表示されれば安心したくなります。
しかし、ここにも注意が必要です。
応急危険度判定は、主に余震による倒壊や落下物などの二次災害を防ぐための応急的な判定です。国土交通省の資料でも、被災建築物が本来持っていた耐震性能が本震によってどの程度低下したかを推定し、その後の余震に対する危険性などを見る制度として整理されています。 (国土交通省)
したがって、
「調査済=建物に何の損傷もない」
ではありません。
長く住み続けるために詳細な補修が必要かどうかは、別途専門的な調査が必要になる場合があります。
「危険」「要注意」のステッカーを見つけたら
地震後に建物入口へ赤や黄色のステッカーが貼られている場合には、その指示に従います。
赤の「危険」であれば、原則として建物へ立ち入らないことが重要です。
黄色の「要注意」の場合も、「少し注意すれば普通に使える」という意味ではありません。
ステッカーには危険箇所や注意事項などが記載されるため、内容を確認します。東京都も判定結果と問い合わせ先などをステッカーで周知するとしています。 (東京防災情報)
荷物を取りに戻りたい場合でも、自己判断で入らず、自治体などの指示を確認しましょう。
「修理業者が突然訪ねてきた」にも注意
大規模地震の後には、
「屋根が壊れている」
「今すぐ修理しないと危険」
「保険を使えば無料で直せる」
などと言って訪問する業者が現れることがあります。
実際に修理が必要な場合もありますが、不安な状態でその場ですぐ高額な契約を結ぶ必要はありません。
緊急に人命へ関わる危険がある場合は別として、まず建物の状態を確認し、管理会社、自治体、保険会社などへ相談することが重要です。
修理費が大きくなる住宅ほど、複数の情報を確認してから判断した方がよいでしょう。
地震後に確認したい住宅チェックポイント
安全を確保できている場合には、次のような点を確認してみましょう。
- 建物全体に明らかな傾きがないか
- 柱・梁・基礎などに大きな亀裂がないか
- 外壁や屋根が落下しそうになっていないか
- ドアや窓が急に開閉しにくくなっていないか
- 床に明らかな傾きや変形がないか
- 水漏れがないか
- ガス臭がしないか
- マンションの廊下・階段などに大きな損傷がないか
- 管理会社や自治体から使用禁止などの案内が出ていないか
- 応急危険度判定のステッカーが貼られていないか
ただし、このチェックは安全性を自己認定するためのものではありません。
異常を見つけたら「自分で安全だと判断する」のではなく、専門家へつなぐためのチェックと考えてください。
まとめ
地震後に自宅が立っているからといって、そのまま住み続けても安全とは限りません。
まず建物の外側から、
傾き。
大きな亀裂。
外壁の落下。
周辺地盤。
などを確認し、明らかな異常がある場合には無理に建物へ入らないことが重要です。
大規模な地震では、自治体による被災建築物応急危険度判定が行われることがあります。「危険」「要注意」「調査済」の3段階で表示され、余震などによる二次災害を防ぐための判断材料になります。 (防災東京)
室内では、
ひび割れ。
ドアや窓。
床の傾き。
水漏れ。
ガス。
などの異常を確認します。
ただし、ひび割れの大きさだけで建物の安全性を自己判断することは避けましょう。
マンションなら、自分の部屋だけでなく共用部分や給排水設備にも注意が必要です。
そしてガス臭を感じた場合には、火だけでなく換気扇や電灯のスイッチにも触れないよう、ガス事業者の案内に従う必要があります。 (東京ガス)
地震後に重要なのは、
「自分で建物の安全性を証明する」ことではありません。
自分で確認できる異常を見つけ、危険なら離れ、必要に応じて自治体、管理会社、大家、建築の専門家などへつなぐことです。
家は生活を守る場所ですが、損傷した建物に無理にとどまれば、余震によって新たな被害を受ける可能性があります。
「家があるから帰る」のではなく、
「安全を確認できた家だから戻る」
という意識が大切です。
次回はいよいよ最終回です。
「これから住む家なら、地震リスクをどう考えて選べばよいのか」
建物の耐震性だけではなく、地盤、液状化、地震火災、ハザードマップ、避難場所、周辺道路まで含めて、地震に備えた物件・エリア選びを総合的に解説します。




