新NISAの普及により、若い世代でも資産形成に前向きな人が増えている。一方で、将来のために投資額を増やすあまり、現在の生活や人間関係を極端に削ってしまうケースもある。住まいは家計の大きな固定費であり、同時に人生の満足度にも深く関わる。不動産の視点から、無理のない資産形成と住まい選びを考えたい。
新NISAの広がりで「投資優先」の生活設計が進んでいる
元記事では、実家暮らしの24歳男性が手取り月22万円のうち15万円を新NISAに回し、交際費や日々の支出を徹底的に削る事例が紹介されている。金融庁の利用状況調査でも、2025年12月末時点のNISA口座数は約2,826万口座に達しており、投資が若い世代の生活設計に入り込んでいることが分かる。
資産形成そのものは悪いことではない。将来の不安に備え、早いうちから積み立てを始める意義は大きい。ただし、投資額を増やすことだけが人生設計ではない。住まい、仕事、人間関係、健康、経験への支出も、長期的には自分の資産を支える要素になる。
実家暮らしは住宅費を抑える有効な選択肢である
不動産の観点で見ると、元記事の男性が大きな投資額を確保できている理由は「実家暮らし」にある。家賃や住宅ローン、光熱費の一部を抑えられるため、毎月の可処分所得を投資に回しやすい。
特に都市部では、家賃負担は若年層の家計に大きく影響する。実家から通勤できる環境があるなら、無理に一人暮らしを始めず、その期間を貯蓄や投資、将来の住宅購入資金づくりに充てる考え方は合理的だ。
ただし、実家暮らしにも注意点がある。住居費が低い状態を前提に投資額を決めてしまうと、転職、結婚、独立、親の介護などで生活環境が変わったときに家計が一気に苦しくなる可能性がある。住宅費を抑えられている時期こそ、将来の家賃や住宅ローンを想定した余力を残しておくことが重要だ。
不動産価格の上昇は「住まいの資産性」への関心を高めている
近年は、マンション価格の上昇も若い世代の住まい選びに影響している。国土交通省の不動産価格指数では、2025年12月分の全国の住宅総合指数は148.0、マンション(区分所有)は225.1となっており、2010年平均を100とした場合、マンション価格の上昇が目立つ。
さらに東京カンテイの調査では、2026年4月の首都圏中古マンション70㎡換算価格は7,225万円、東京23区は1億2,724万円と高値圏で推移している。
こうした市況を見ると、「早く買わなければ」と焦る人もいる。しかし、不動産は株式や投資信託と違い、簡単に売買できるものではない。購入後には住宅ローン、管理費、修繕積立金、固定資産税、設備修繕費なども発生する。価格上昇だけを理由に購入を急ぐのではなく、長く住み続けられるか、将来貸せるか、売却時に需要があるかを冷静に見る必要がある。
不動産投資にも「節約しすぎ」の落とし穴がある
元記事の事例はNISAの話だが、不動産投資にも似た落とし穴がある。利回りや節税効果だけを重視し、生活費や交際費を極端に削って投資に回すと、空室、修繕、金利上昇などの変化に対応できなくなる。
不動産投資は、毎月の家賃収入が見込める一方で、突発的な支出も発生する。自己資金をすべて投資に使い切るのではなく、生活防衛資金や修繕予備費を残しておくことが欠かせない。また、物件を持つこと自体が目的になると、本来の生活の豊かさを見失いやすい。
資産形成は「将来の安心」をつくるための手段である。現在の生活を過度に犠牲にしてまで投資額を最大化する必要はない。
住宅費・投資・暮らしのバランスを設計する
住まいは、単なる支出ではない。毎日を過ごす場所であり、仕事のパフォーマンスや人間関係、健康にも関わる生活基盤である。家賃を下げる、実家暮らしを続ける、郊外に住む、中古マンションを選ぶ、不動産投資を検討する。どの選択にもメリットとデメリットがある。
大切なのは、住宅費を「削る対象」としてだけ見ないことだ。自分にとって必要な広さ、通勤時間、周辺環境、将来の家族構成、資産性を総合的に考える必要がある。投資信託で資産を増やすことと、住まいの質を整えることは、どちらか一方を選ぶものではない。
まとめ
新NISAの普及により、若い世代の資産形成意識は確実に高まっている。一方で、投資額を増やすために現在の暮らしや人間関係を極端に削ると、将来の資産は増えても、生活の満足度を損なう可能性がある。
不動産の視点で見れば、実家暮らしは住宅費を抑える有効な選択肢であり、将来の住宅購入や不動産投資に向けた準備期間にもなる。ただし、住居費が低い状態に依存しすぎると、生活環境が変わったときに家計が崩れやすい。
資産形成では、「いくら増やすか」だけでなく、「どこで、誰と、どのように暮らすか」も重要だ。マンション価格が高値圏にある今こそ、価格上昇だけに目を向けるのではなく、自分の生活に合った住まいと投資のバランスを見極める姿勢が求められる。






