東京で住まいを探すとき、「駅徒歩10分以内」を条件にする人は多いでしょう。
一般的には駅から離れるほど交通利便性が下がり、家賃や不動産価格にもその不便さが反映されやすくなります。
ところが東京には、駅から決して近くないにもかかわらず、住宅地として評価されている街があります。
その代表例の一つが世田谷区深沢です。
深沢には鉄道駅がありません。それでも自由が丘、都立大学、駒沢大学、桜新町など人気エリアに囲まれ、落ち着いた住宅街として知られています。
では、なぜ駅から遠い深沢が選ばれるのでしょうか。
そして実際のところ、車なしでも生活できるのでしょうか。
今回は「東京の陸の孤島」の中でも少し特殊な、駅遠なのに住宅地としての魅力を持つ深沢を検証します。
世田谷区深沢には鉄道駅がない
まず深沢の最大の特徴は、町内に鉄道駅が存在しないことです。
深沢は1丁目から8丁目まであり、世田谷区の南東部に位置しています。
周辺には東急東横線の自由が丘駅・都立大学駅、東急田園都市線の駒沢大学駅・桜新町駅などがありますが、どの駅が使いやすいかは深沢の中でも住所によって変わります。
つまり「深沢の最寄り駅は○○駅」と一つに決めることが難しい街なのです。
これは物件探しでも注意したいところです。
同じ「世田谷区深沢」という住所でも、1丁目と8丁目では利用しやすい駅や生活圏が異なります。
そのため深沢の物件を見る場合は、住所だけで判断せず、実際の物件から駅までのルートを確認することが重要です。
駅から遠いのに「不便な街」という印象が弱い理由
通常、鉄道駅がない住宅地と聞くと、
「買い物が大変そう」
「車が必要そう」
「都心へ出にくそう」
というイメージを持つでしょう。
しかし深沢は、典型的な郊外型の「駅遠住宅地」とは少し違います。
その理由の一つが、周辺を人気の高い住宅エリアに囲まれていることです。
自由が丘。
都立大学。
駒沢。
桜新町。
等々力。
こうした街が周辺にあります。
深沢自体には鉄道駅がなくても、東京23区の中で孤立しているわけではありません。
むしろ、複数の駅・街の中間にある住宅地と考えた方が実態に近いでしょう。
そのため今回の「陸の孤島」という表現も、文字どおり交通手段がないという意味ではありません。
「駅徒歩を基準にすると不便に見えるが、別の交通手段まで含めると評価が変わる街」
という意味で捉えると分かりやすくなります。
深沢の移動を支えるのは路線バス
深沢で鉄道の代わりに重要になるのがバスです。
東急バスの路線網があり、深沢周辺から自由が丘駅、都立大学駅、駒沢大学駅などへ向かう選択肢があります。
さらに場所や路線によっては渋谷方面などへの移動も可能です。
深沢に住む場合、
自宅→徒歩→駅
ではなく、
自宅→バス→駅
という移動が日常になります。
ここで大切なのは、第1回の大泉学園町と同じく「バス停が近い」という情報だけで判断しないことです。
朝の本数はどうか。
通勤時間帯に混雑するか。
どの駅へ出られるか。
帰宅時間帯の本数はどうか。
休日はどうか。
最終バスは何時か。
物件を内見するときには、Googleマップなどで所要時間を見るだけではなく、実際の時刻表まで確認した方がよいでしょう。
「自由が丘が使える」は住所によって意味が違う
深沢の物件情報では、「自由が丘生活圏」といった表現を見かけることがあります。
確かに深沢の一部からは自由が丘方面へアクセスできます。
しかし、
「自由が丘が利用できる」=「自由が丘駅まで歩いて数分」
ではありません。
ここは住まい探しで混同しやすいポイントです。
自由が丘の商業施設や飲食店を日常的に利用できることと、毎朝自由が丘駅まで徒歩で通勤できることは別問題です。
深沢を選ぶなら、
「自由が丘に近いから」
だけではなく、
自宅から自由が丘駅まで実際に何分かかるのか
を確認する必要があります。
バスなのか。
自転車なのか。
徒歩なのか。
雨の日はどうするのか。
ここまで考えて初めて「自由が丘を使える物件」かどうかが見えてきます。
自転車との相性はかなり重要
深沢で車を持たずに暮らすなら、自転車は非常に重要な移動手段になります。
鉄道駅まで徒歩では少し遠くても、自転車なら移動時間を短縮できます。
さらに自転車があれば、
自由が丘方面。
駒沢方面。
等々力方面。
桜新町方面。
など、生活圏を広げやすくなります。
これは深沢の大きな特徴です。
「最寄り駅を一つ決め、その駅だけを使う」というより、
目的によって周辺の街を使い分ける
という生活がしやすくなります。
例えば買い物は自由が丘方面。
公園へ行くなら駒沢方面。
田園都市線を利用するときは桜新町・駒沢大学方面。
といった暮らし方です。
駅中心ではなく、エリア全体を生活圏として使う街ともいえるでしょう。
深沢の魅力は「駒沢オリンピック公園」が近いこと
深沢の住環境を語るうえで外せないのが、駒沢オリンピック公園です。
広い園内にはスポーツ施設やジョギング・サイクリングコースなどがあり、日常的に運動や散歩を楽しめます。
東京都公園協会によると、公園は世田谷区駒沢公園・目黒区東が丘にまたがり、24時間入園できます。
深沢の場所によっては、こうした大規模公園を普段使いできることが大きな魅力になります。
駅近マンションでは、
駅。
スーパー。
飲食店。
などへの近さが評価されがちです。
一方、深沢では、
公園、静かな住宅環境、道路、住宅の広さ
など、駅とは違った価値が重要になります。
「呑川緑道」も深沢らしい住環境の一つ
深沢周辺には、呑川沿いの緑道があります。
世田谷区によると、呑川緑道は深沢1丁目から5丁目付近まで続き、桜並木としても知られています。
こうした緑道が住宅街の中にあることも、深沢の街並みに特徴を与えています。
毎日の通勤だけを考えれば駅徒歩5分の方が便利でしょう。
しかし休日に、
犬の散歩をする。
子どもと歩く。
ジョギングする。
自転車で移動する。
という生活では、住宅周辺の環境も重要になります。
深沢は、通勤利便性より住環境を優先する人に評価されやすい理由が分かりやすい街です。
「駅から遠い=家賃がかなり安い」とは限らない
ここが大泉学園町との大きな違いです。
普通なら駅から遠くなるほど、家賃が大幅に安くなることを期待したくなります。
しかし深沢では、必ずしも「駅遠だから格安」というわけではありません。
背景には、
世田谷区という立地。
自由が丘・駒沢・桜新町など周辺エリアの人気。
落ち着いた住宅環境。
ファミリー向け住宅の需要。
などがあります。
つまり深沢では、
「駅から遠い分だけ、とにかく安い家を探す」
という考え方より、
「同じ予算なら、駅距離を譲る代わりに住環境や広さを取れるか」
という考え方の方が合っています。
駅徒歩5分の狭い家か、駅遠の広い家か
例えば同じ世田谷区内で住まいを探しているとします。
駅徒歩5分。
築浅。
コンパクトな間取り。
という物件は便利ですが、その分、家賃や購入価格が高くなる傾向があります。
そこで検索条件を、
駅徒歩5分以内。
から、
バス利用可・自転車利用可。
まで広げる。
すると深沢のような住宅地が候補に入ってきます。
駅距離を譲る代わりに、
部屋数。
専有面積。
静かな環境。
公園への近さ。
駐車場。
といった条件を取りやすくなる可能性があります。
東京の住宅選びでは、駅徒歩という一つの条件にどこまでお金を払うかを考えることが重要です。
車があると深沢はさらに暮らしやすい?
深沢は「車がないと生活できない街」とまではいえません。
バス、自転車、徒歩を組み合わせれば生活できます。
しかし車を持っている家庭なら、利便性が高まる場面は多いでしょう。
例えば、
週末のまとめ買い。
子どもの送り迎え。
雨の日の移動。
高齢の家族との外出。
大きな荷物の買い物。
などです。
特に戸建てや駐車場付き住宅を選ぶのであれば、駅近マンションとは異なる生活スタイルを作れます。
ただし、世田谷区内なので駐車場代や道路事情も無視できません。
「車を持てばすべて解決」ではなく、物件に駐車場があるか、周辺道路を運転しやすいかまで確認する必要があります。
車なしでも生活できる人はどんな人?
では、深沢で車を持たずに暮らすなら、どのような人と相性がよいのでしょうか。
一つは、自転車移動に抵抗がない人です。
もう一つは、バス移動を日常の交通手段として受け入れられる人です。
そして、
毎日必ず駅へ行くわけではない。
在宅勤務の日がある。
近隣で買い物を済ませることが多い。
休日は近所で過ごすことが多い。
という人なら、駅から遠いことのデメリットは小さくなります。
反対に、
毎日終電近くまで都心で働く。
朝の1分でも通勤時間を短くしたい。
雨の日にバスを待ちたくない。
自転車には乗らない。
という人には、駅近物件の方が合う可能性があります。
子育て世帯にとっては「駅距離以外」が重要になる
子育て世帯の住まい探しでは、駅距離だけでは決められません。
保育園。
学校。
公園。
スーパー。
病院。
歩道。
交通量。
住宅の広さ。
こうした条件が日常生活に大きく影響します。
子どもが生まれる前は「駅徒歩5分」が最優先だった人でも、家族が増えると、
「もう一部屋欲しい」
「近くに大きな公園が欲しい」
「静かな環境で暮らしたい」
と優先順位が変わることがあります。
深沢のような住宅地は、まさにこうしたライフステージの変化によって評価が変わりやすい街です。
深沢で物件を見るなら昼と夜の両方を歩きたい
駅遠物件ほど、インターネット上の情報だけで判断しない方がよいでしょう。
おすすめなのは、実際に物件から駅まで移動してみることです。
平日の朝。
休日の昼。
夜。
雨の日。
できれば条件を変えて確認します。
バス停まで何分か。
バスは混雑するか。
自転車なら走りやすいか。
夜道は暗くないか。
スーパーから荷物を持って歩けるか。
こうしたことは、「駅徒歩○分」という数字からは分かりません。
特に深沢のように複数駅を使える地域では、
「不動産会社が書いている最寄り駅」以外の駅も実際に試す
とよいでしょう。
ハザードマップも必ず住所単位で確認する
住環境が良いからといって、防災面を確認しなくてよいわけではありません。
世田谷区は洪水・内水氾濫、土砂災害などに関するハザードマップを公開しています。
深沢周辺には呑川水系もあるため、物件を借りる場合でも購入する場合でも、住所ごとの災害リスクを確認しておくことが大切です。
ここでも、
「深沢だから安全」
「川の近くだから危険」
と単純に判断するのではありません。
同じ町内でも場所によって想定は異なります。
前回までの地震連載でも取り上げたように、物件選びでは建物の安全性と土地・地域のリスクをセットで見ることが重要です。
深沢は「駅遠物件=安い」という常識を考え直せる街
第1回の大泉学園町では、
駅から離れることで家賃や住宅の広さにメリットが生まれる可能性
を取り上げました。
深沢は少し違います。
深沢の場合、
駅から遠いのに、それだけでは安くならない
という特徴があります。
なぜでしょうか。
不動産の価値は駅距離だけで決まらないからです。
住宅地としての環境。
周辺エリア。
公園。
街並み。
土地の広さ。
教育・生活環境。
こうした条件にも需要があります。
つまり深沢は、
「駅徒歩○分だけで東京の住宅価値を判断すると見誤ることがある」
と教えてくれる街でもあります。
将来売る・貸す可能性があるなら駅距離は無視できない
一方、購入を検討している場合には注意も必要です。
自分にとって駅距離が問題でなくても、将来その物件を買う人・借りる人も同じとは限りません。
一般的に駅から近い物件は、通勤・通学する幅広い層から検討されやすいという強みがあります。
駅遠物件では、
バス便。
駐車場。
住宅の広さ。
住環境。
周辺施設。
など、駅距離以外に「選ばれる理由」があるかが重要です。
深沢だから必ず資産価値が維持される、という話ではありません。
購入するのであれば、
「自分が気に入るか」だけでなく「次に住む人は何を評価するか」
という視点も持っておきたいところです。
深沢が向いている人・向いていない人
深沢との相性が良いのは、
駅近より静かな住環境を重視する人
自転車やバスを使える人
在宅勤務が多い人
子育て世帯
公園や緑の近くで暮らしたい人
車を利用する家庭
自由が丘・駒沢・桜新町周辺を生活圏にしたい人
などでしょう。
一方、
毎日電車通勤で駅徒歩を最優先する人
深夜帰宅が多い人
バスを使いたくない人
自転車にも乗らない人
とにかく家賃の安さだけを求める人
には、別のエリアの方が合う可能性があります。
まとめ
世田谷区深沢は、東京23区内でも少し変わった「駅遠住宅地」です。
町内に鉄道駅はありません。
それでも周囲には自由が丘、都立大学、駒沢大学、桜新町、等々力などがあり、バスや自転車を組み合わせることで複数の生活圏を利用できます。
さらに駒沢オリンピック公園や呑川緑道など、駅近だけでは測れない住環境もあります。
そのため深沢は、
「駅がないから不便で安い街」
という単純な評価が当てはまりにくい場所です。
もちろんデメリットもあります。
毎日の電車通勤ではバスや自転車を挟む可能性があります。
雨の日は移動が面倒になるかもしれません。
深夜の帰宅ではバスの運行時間も気になります。
そして駅から遠いにもかかわらず、「驚くほど家賃が安い」とは限りません。
だからこそ深沢で住まいを探すなら、
「駅まで何分?」
だけではなく、
「自分の生活に駅はどれくらい必要?」
と考えてみることが重要です。
毎日出社する人と週3日在宅勤務する人では、同じ駅徒歩20分でも感じ方は違います。
単身者と子育て世帯でも、住宅に求める条件は違います。
東京では長い間、「駅近」が不動産選びの重要な価値とされてきました。
もちろん今でも駅近は大きなメリットです。
しかし、駅徒歩だけを優先すると、
広さ。
静けさ。
公園。
街並み。
車の使いやすさ。
といった別の価値を諦めることにもなります。
深沢は、そんな**「駅近だけが住みやすさではない」**ことを考えるには面白い街です。
次回、第3回は足立区・鹿浜です。
深沢とは同じ「鉄道駅から離れた住宅地」でも、街の性格は大きく異なります。
日暮里・舎人ライナーの開業によって交通事情はどう変わったのか。
バス・自転車・車のどれが現実的なのか。
そして最大のテーマとなるのが、
「駅から遠い代わりに、家賃をどこまで抑えられるのか?」
です。
第3回では、足立区鹿浜を「交通の不便さ」と「住居費」の両面から検証します。
引用元・参考元
- 世田谷区「深沢地区」
- 世田谷区「呑川緑道」
- 東京都公園協会「駒沢オリンピック公園」
- 東急バス「路線バス」
- 世田谷区「洪水・内水氾濫ハザードマップ」
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
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