香港と聞いて、多くの人が思い浮かべるのが、海と山の間に高層ビルが密集する独特の街並みです。
住宅も例外ではありません。細長い超高層マンションが立ち並び、限られた土地を立体的に使うことで巨大都市を形成しています。
そして香港は、長年にわたり「住宅価格が非常に高い都市」として世界的に知られてきました。
なぜ香港の住宅はこれほど高くなったのでしょうか。
単純に「土地が狭いから」というだけではありません。
土地の供給方法、人口の集中、金融、公共住宅政策、民間住宅市場、そして海外からの投資資金など、複数の要素が重なっています。
「世界の不動産投資」第4回は、香港の住宅市場から、土地が限られた都市では不動産の価値がどのように形成されるのかを考えます。
香港は「土地がない」のではなく、使える土地に制約がある
香港は非常に高密度な都市です。
しかし、香港全体が隙間なく建物で埋まっているわけではありません。
山地が多く、自然保護地域もあり、実際に都市開発できる土地には制約があります。
その限られた市街地に、
住宅。
オフィス。
商業施設。
道路。
鉄道。
公共施設。
などを配置する必要があります。
そこで香港では、土地を横へ広げるのではなく、上へ伸ばす都市づくりが進みました。
超高層住宅が当たり前のように立ち並ぶのは、単に建築技術が発達しているからではありません。
限られた都市空間を効率的に利用する必要があった結果でもあります。
香港の土地は基本的に「政府から借りる」仕組み
香港不動産を理解するうえで、日本との大きな違いが土地制度です。
日本では土地を購入すると、原則として所有権を持ち続けることができます。
一方、香港では土地の大部分が政府によって保有され、民間が利用する際には政府から一定期間の土地使用権、つまりリースを取得する形が基本です。
そのため香港の不動産を購入するときは、建物だけではなく、
土地リースの期間。
政府地代。
リース条件。
などを確認する必要があります。
香港政府は2024年7月から新しい土地リース延長制度を導入しました。
対象となる一般的な土地リースについては、政府が延長しないと指定しない限り、満了時に原則50年間延長できる仕組みです。追加のプレミアムは不要ですが、延長後は課税評価額の3%相当の政府地代が課されます。
つまり香港の不動産は、日本の「土地を永久に所有する」という感覚とは少し違います。
「土地をどう供給するか」が住宅価格に直結しやすい
政府が土地供給に大きな役割を持つということは、不動産市場にも大きな意味があります。
新しくどの土地を開発するのか。
住宅用地をどれだけ供給するのか。
どこに新しい鉄道や道路を通すのか。
どの地区を再開発するのか。
こうした政策が住宅供給に影響します。
香港では人口や住宅需要が集中する一方、開発可能な土地が限られるため、住宅供給が需要に追いつかない局面では価格が上昇しやすくなります。
そのため香港の不動産市場を見る際は、
「人口が増えているか」だけでなく、「住宅を建てる土地がどれだけ供給されるか」
を見ることが重要です。
超高層住宅は「景観」ではなく都市の仕組みそのもの
香港では30階、40階を超える住宅も珍しくありません。
これは見た目のインパクトだけの話ではありません。
土地が限られているため、一つの敷地にできるだけ多くの住宅を供給する必要があります。
そこで、
高層化する。
住戸をコンパクトにする。
駅や商業施設と一体開発する。
という都市開発が進んできました。
香港では駅の上や周辺に大規模なマンションやショッピングモールが建設されるケースも多く、交通と不動産開発が密接に結びついています。
これは東京の駅前再開発とも共通する部分があります。
ただし香港では、その密度が非常に高いのが特徴です。
香港では公共住宅の存在も非常に大きい
「香港の住宅は高い」というニュースだけを見ると、すべての住民が高額な民間マンションに住んでいるように感じるかもしれません。
しかし実際には、公共住宅が住宅市場の大きな部分を占めています。
香港政府統計処によると、2025年の恒久住宅ストックのうち、公共賃貸住宅が約28.2%、政府の補助を受けた分譲住宅が約15.0%を占めていました。民間の恒久住宅は約56.7%です。
世帯ベースで見ても、2024年には約30%の世帯が公共賃貸住宅、15.4%が補助付き持ち家住宅に暮らしていました。
つまり香港では、
民間の高額住宅市場と、大規模な公共住宅政策が並存している
のです。
この構造を知らずに「香港の住宅価格」だけを見ると、市場の実態を見誤ります。
民間住宅市場は投資対象として世界から注目されてきた
一方、民間住宅は長年にわたり国内外の投資家から注目されてきました。
香港は国際金融都市であり、
金融。
貿易。
物流。
専門サービス。
などの企業や人材が集まっています。
そうした経済活動が住宅需要を支えてきました。
さらに香港は世界中から資金が入りやすい市場でもあり、不動産は資産保有手段の一つとして選ばれてきました。
ただし、
「香港だから価格はずっと上がる」
というわけではありません。
近年の香港住宅市場を見ると、それがよく分かります。
高かった香港住宅にも価格調整は起きる
香港政府のRating and Valuation Departmentは、民間住宅の価格指数や賃料指数を継続的に公表しています。
2026年9月時点では、2026年7月までの民間住宅価格・賃料データが公表されており、市場は過去の上昇局面だけでなく、調整や回復を繰り返しています。
ここで重要なのは、
「土地が少ない=価格は必ず上がる」ではない
ということです。
不動産価格には、
金利。
景気。
所得。
住宅ローン。
新築供給。
投資需要。
中国本土を含めた資金移動。
など、多くの要素が影響します。
土地が限られていても、買い手が減れば価格は調整します。
これは香港の住宅市場が教えてくれる重要なポイントです。
住宅市場が弱くなると、政府は規制を緩めることもある
香港の不動産政策で非常に興味深いのが、2024年の制度変更です。
香港では住宅価格の過熱を抑えるため、過去に外国人購入者や複数住宅所有者、短期売却などに対して追加的な印紙税を導入していました。
しかし2024年2月28日、香港政府はこれらの需要抑制策を全面的に撤廃しました。
これにより、住宅取引に対するBuyer’s Stamp Duty、Special Stamp Duty、追加的な高率のAd Valorem Stamp Dutyは廃止されました。
これは第3回で取り上げたシンガポールとは対照的です。
シンガポールでは現在も外国人の住宅購入に高額な追加税を課しています。
一方、香港は住宅市場が弱まるなかで、需要を抑える規制を撤廃しました。
つまり住宅政策は、
「国ごとに違う」だけでなく、「同じ国・地域でも市場環境によって変わる」
ということです。
現在は外国人だけに大きな追加税があるわけではない
ここは現在の香港を見るうえで重要です。
以前は、香港永久居民ではない購入者にBuyer’s Stamp Dutyが課されていました。
しかし、2024年2月28日以降の住宅取引では、このBuyer’s Stamp Dutyは廃止されています。
つまり2026年現在、
「外国人が香港の住宅を買うと、それだけで以前のような追加15%・7.5%の税金がかかる」
という説明は正しくありません。
現在は基本となるAd Valorem Stamp Dutyが住宅価格に応じて課されます。
2026年2月26日以降は、住宅価格1億香港ドル超の高額物件について最高税率が6.5%へ引き上げられました。一方、400万香港ドル以下の住宅では100香港ドルとなっています。
こうした税制変更を見るだけでも、香港政府が市場環境に応じて不動産政策を調整していることが分かります。
香港は「投資家に開かれた市場」へ戻ったともいえる
2024年の規制撤廃によって、外国人や複数住宅所有者に対する追加取得コストは大きく軽減されました。
そのため制度面だけを見れば、海外投資家にとっては以前より参加しやすい市場になっています。
ただし、
税金が下がったから投資に有利。
外国人規制が緩くなったから買い時。
と単純に判断することはできません。
市場規制が撤廃された背景には、住宅市場の環境変化があります。
つまり、
規制が緩和された理由まで見る必要がある
ということです。
これは海外不動産投資では特に重要な考え方です。
住宅ローン市場も非常に大きい
香港では住宅ローンも不動産市場を大きく左右します。
香港金融管理局によると、2026年7月末時点の住宅ローン残高は約1兆9,635億香港ドルでした。
同月の新規住宅ローンでは、HIBOR、つまり香港銀行間取引金利を基準とするローンが61%を占めています。
ここからも、香港不動産が金融市場と強く結びついていることが分かります。
金利が上昇すれば住宅ローン負担が増える。
購入できる価格が下がる。
投資家の収益性も変わる。
結果として不動産価格にも影響する。
「土地が少ない」という供給面だけでなく、金融環境も重要なのです。
香港の不動産では「狭さ」が価値観を変える
日本人が香港の住宅を見ると、住戸面積の小ささに驚くことがあります。
しかし不動産価値は、広さだけでは決まりません。
香港では、
駅に近い。
中心部へアクセスしやすい。
商業施設と直結している。
眺望がある。
管理状態が良い。
といった条件が重視されます。
つまり、
「100㎡あるから価値が高い」
とは限りません。
限られた空間の中で、どれだけ便利な立地を確保できるか。
これが不動産価値に強く影響します。
東京の都心マンションにも通じる考え方です。
日本と香港を比べると「土地」の意味が違う
日本と香港の不動産市場を比較すると、土地に対する考え方の違いがよく分かります。
日本では、土地の所有権そのものを資産として持つことが一般的です。
香港では政府が土地を管理し、一定期間のリースを設定する制度が基本です。
さらに住宅供給でも政府の役割が非常に大きく、公共住宅も広く普及しています。
つまり、
「マンションを買う」という同じ行為でも、土地制度や住宅政策の前提が違う
のです。
海外不動産投資で最も危険なのは、日本の常識をそのまま海外へ持ち込むことです。
価格。
利回り。
築年数。
だけではなく、
その国・地域では土地をどう所有するのか。
住宅政策はどうなっているのか。
政府は市場へどの程度介入するのか。
まで確認する必要があります。
「土地が少ないから上がる」は不動産投資では危険な考え方
香港の住宅市場から学べる最大のポイントはここでしょう。
不動産投資ではよく、
「土地は増えないから価格は上がる」
と言われることがあります。
確かに、土地供給の制約は不動産価格を支える一つの要因になります。
しかし香港のように土地が限られた都市であっても、市場価格は変動します。
金利が上がれば買える人が減る。
景気が悪くなれば需要が弱くなる。
住宅供給が増えれば需給が変わる。
政策が変われば投資家の行動も変わる。
つまり不動産価格を決めるのは、
「土地の希少性」だけではなく、「その価格で買いたい人がどれだけいるか」
なのです。
まとめ
「世界の不動産投資」第4回は香港を取り上げました。
香港は土地利用に制約があり、限られた市街地を効率的に使うため、超高層住宅が発達してきました。
さらに土地は政府からのリースを基本とする制度であり、日本とは不動産所有の前提そのものが異なります。
一方で、香港の住宅市場は民間住宅だけで構成されているわけではありません。
2025年の住宅ストックでは、公共賃貸住宅と補助付き分譲住宅を合わせると4割を超えており、政府の住宅政策が非常に大きな役割を果たしています。
そして興味深いのが、不動産政策の変化です。
住宅価格が過熱していた時期には投資需要を抑える追加税を導入しましたが、市場環境が変化すると、2024年にはそれらを撤廃しました。
つまり香港の不動産市場から見えてくるのは、
「土地が少ないから高い」という単純な構造ではありません。
土地供給。
住宅政策。
金利。
公共住宅。
海外資金。
税制。
そして実際に住宅を必要とする人。
こうした要素が組み合わさって不動産価格は形成されています。
不動産投資では「希少性」は重要です。
しかし、本当に見るべきなのは、
その希少な不動産を、将来もその価格で必要とする人がいるか
という点でしょう。
次回、第5回はドバイです。
土地が限られた香港とは対照的に、ドバイでは砂漠と海を開発し、新しい住宅や都市そのものを次々と造っています。
しかも世界中から投資家を呼び込み、超高層マンションや人工島、高級住宅を国際的な投資商品へと成長させてきました。
第5回は、
「ドバイはなぜ世界の不動産投資家を集める?超高層都市と海外マネーの仕組み」
をテーマに、人口増加と巨大開発によって成長する不動産市場を見ていきます。
引用元・参考元
- Hong Kong Rating and Valuation Department「Property Market Statistics」
- Hong Kong Census and Statistics Department「Hong Kong in Figures 2026 Edition」
- Hong Kong Census and Statistics Department「Living with Statistics 2025」
- Hong Kong Lands Department「Lease Extension」
- Hong Kong Inland Revenue Department「Demand-side Management Measures for Residential Properties」
- Hong Kong Inland Revenue Department「Ad Valorem Stamp Duty」
- Hong Kong Government「Abolition of demand-side management measures for residential properties」
- Hong Kong Monetary Authority「Residential Mortgage Survey Results for July 2026」



