世界では、どのような不動産投資が行われているのでしょうか。
日本では「不動産投資」と聞くと、東京都心のワンルームマンションや一棟アパートなどを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし海外へ目を向けると、不動産市場の仕組みも、住宅に対する考え方も大きく異なります。
第1回で取り上げるのはアメリカです。
アメリカでは中古住宅の流通市場が非常に大きく、一戸建てを購入して貸し出す投資から、大規模な集合住宅、REITまでさまざまな形で不動産へ投資されています。
今回は、「アメリカの不動産投資は日本と何が違うのか?」という視点から、その特徴を見ていきます。
アメリカでは「中古住宅」が住宅売買の主役
まず、日本との違いを理解するうえで重要なのが中古住宅です。
全米不動産業者協会(NAR)によると、アメリカでは既存住宅、つまり一度所有・居住された住宅の売買が住宅販売全体の90%以上を占めています。ここには一戸建てだけでなく、コンドミニアムやコープも含まれます。
これはアメリカの住宅市場を考えるうえで重要なポイントです。
住宅を買う。
住む。
必要に応じて改修する。
そして売却する。
その住宅を別の人が再び購入する。
こうした中古住宅の売買が大きな市場として成立しています。
日本でも中古マンションや中古戸建ての流通は活発になっていますが、アメリカでは中古住宅市場の存在感が非常に大きいのです。
不動産投資でも、この「中古住宅を売買する市場」が重要な土台になっています。
一戸建ても「賃貸不動産」になる
日本の個人向け不動産投資では、区分マンションやアパートが代表的です。
一方、アメリカでは一戸建てを購入して賃貸する「Single-Family Rental」という市場もあります。
日本で考えると、
「普通のファミリー向け戸建てを購入して、別の家族に貸す」
というイメージです。
もちろん日本にも戸建て賃貸はありますが、アメリカでは一戸建て住宅そのものが非常に大きな住宅ストックを形成しています。
さらに投資対象は戸建てだけではありません。
集合住宅。
オフィス。
物流施設。
ホテル。
商業施設。
データセンター。
通信塔。
など、さまざまな不動産が投資対象になっています。
アメリカの不動産投資は「マンション投資」という一つのジャンルだけでは捉えられないほど幅広いのです。
約3分の1の世帯は「持ち家ではない」
アメリカは「マイホームの国」というイメージもあります。
しかし、全員が住宅を所有しているわけではありません。
米国国勢調査局によると、2026年第2四半期の住宅所有率は65.0%でした。
単純に考えれば、残る相当数の世帯は賃貸などの形で住宅を確保していることになります。
つまりアメリカには、
住宅を買いたい人。
住宅を借りたい人。
住宅を貸したい投資家。
住宅を売りたい所有者。
が存在し、大きな住宅市場を形成しています。
不動産投資は、結局のところ「誰かが借りてくれること」が重要です。
その意味では、賃貸住宅を必要とする層がどのくらいいるのかを見ることが、アメリカでも重要になります。
ただし「アメリカ全体」で考えると危険
ここからが、アメリカ不動産を見るうえで非常に重要なポイントです。
「アメリカの不動産価格は上がっている」
「アメリカは人口が増えている」
という国単位の話だけで、投資対象を判断することはできません。
アメリカは非常に広い国です。
ニューヨーク。
ロサンゼルス。
サンフランシスコ。
シカゴ。
マイアミ。
ダラス。
ヒューストン。
フェニックス。
などでは、人口動態も住宅価格も家賃も供給状況も違います。
さらに同じ都市圏でも、
中心部。
郊外。
学校区。
治安。
交通。
雇用環境。
によって住宅需要が変わります。
実際、NARの住宅統計も全米だけではなく、北東部・中西部・南部・西部に分けて公表されています。2026年7月の既存住宅販売でも、地域によって前月比の動きは異なっていました。
アメリカ不動産では「どの国に投資するか」より一段細かく、**「どの都市の、どのエリアに投資するか」**を見る必要があります。
アメリカでは「家を直して価値を上げる」発想も強い
中古住宅市場が大きいことから、アメリカでは古い住宅を改修して価値を高める考え方も身近です。
古い住宅を購入する。
キッチンや浴室を改修する。
内装を変更する。
必要な修繕をする。
賃貸する、あるいは売却する。
こうした方法です。
不動産投資の世界では、購入・改修・賃貸・借り換え・再投資を組み合わせる手法なども知られています。
ただし、改修すれば必ず利益が出るわけではありません。
購入価格。
工事費。
固定資産税などの保有コスト。
保険。
金利。
賃料。
売却価格。
これらを総合的に計算する必要があります。
特にアメリカでは地域によって住宅事情が大きく異なるため、「古い家を安く買えば儲かる」という単純な話ではありません。
アメリカの住宅ローンで特徴的な「30年固定」
アメリカの住宅市場を語るうえで欠かせないのが住宅ローンです。
代表的なのが30年固定金利型の住宅ローンです。
借入時の金利を長期間固定できれば、その後市場金利が上昇しても、原則として契約したローン金利がそのまま続きます。
この仕組みは住宅市場にも影響します。
たとえば低金利の時期に30年固定ローンを組んだ人にとって、市場金利が大きく上昇すると、
「今の家を売って新しい家を買うと、住宅ローン金利が高くなってしまう」
という状況が生まれます。
その結果、売却をためらう所有者が増えれば、中古住宅の供給にも影響します。
不動産価格を見るときは、単純な人口や景気だけではなく、住宅ローンの仕組みが売り手・買い手の行動を変えることも重要なのです。
金利が変われば不動産市場も動く
2026年のアメリカ住宅市場でも、住宅ローン金利は重要なテーマです。
NARは2026年7月の住宅市場について、住宅販売は比較的安定している一方、住宅ローン金利が市場の動きに大きく関係していると指摘しています。
不動産投資でも金利は重要です。
たとえば、
物件価格50万ドル。
頭金20%。
借入40万ドル。
という物件でも、借入金利が違えば毎月の返済額は大きく変わります。
家賃が同じなら、金利上昇によって手元に残るキャッシュフローが減る可能性があります。
これは日本でも同じですが、物件価格や金利水準が異なれば影響の大きさも変わります。
「物件価格が上がっているか」だけではなく、資金調達コストまで見る必要があるのです。
2026年の中古住宅価格は40万ドルを超える水準
NARによると、2026年7月のアメリカの既存住宅価格の中央値は43万1,400ドルでした。
もちろん、これは全米の中央値です。
ニューヨークやカリフォルニアの一部と、中西部の都市を同じ数字で語ることはできません。
むしろ注目したいのは、NAR自身が地域差を指摘していることです。
2026年7月の市場についても、中西部などの比較的小規模な都市には、世帯年収6万ドル程度でも中央値の住宅を購入できる地域があるとしています。
「アメリカの住宅は高い」
という一言だけでは実態を説明できないのです。
「空室率」を見るのも世界共通
賃貸不動産投資で重要なのが空室です。
どれだけ高い家賃を設定できても、借り手がいなければ賃料収入は得られません。
米国国勢調査局によると、2026年第2四半期の全米の賃貸住宅空室率は7.3%でした。
ただし、この数字も「アメリカのどこでも7.3%」という意味ではありません。
同局は州別や大都市圏別の空室率も公表しています。
不動産投資で本当に確認したいのは、国全体の平均より、
購入候補エリアでは住宅が不足しているのか。
新築住宅が大量供給されているのか。
人口は増えているのか。
どのくらいの家賃なら入居者がいるのか。
といったローカルな需給です。
これは東京の不動産投資でも同じでしょう。
「東京都だから大丈夫」ではなく、駅やエリアごとに賃貸需要を見る必要があります。
アメリカには巨大なREIT市場もある
アメリカの不動産投資でもう一つ外せないのがREITです。
REITとは、多くの投資家から資金を集めて不動産などへ投資し、賃料などから得た収益を投資家へ還元する仕組みです。
アメリカはREIT発祥の国で、制度は1960年に導入されました。現在では同様の仕組みが世界各国・地域へ広がっています。
Nareitによると、米国REITが保有する不動産の総資産は4.5兆ドルを超え、上場REITだけでも2.5兆ドル規模の資産を保有しています。
投資対象も住宅やオフィスだけではありません。
物流施設。
データセンター。
通信塔。
ホテル。
商業施設。
森林。
など非常に幅広いのが特徴です。
つまりアメリカでは、
「自分で住宅を買って大家になる」
だけが不動産投資ではありません。
株式のようにREITを購入し、間接的に不動産へ投資する巨大市場も存在しています。
不動産投資が「金融商品」になっている
ここは今回のシリーズで覚えておきたいポイントです。
不動産投資には、大きく分けると、
物件を直接所有する方法。
ファンドやREITを通じて間接的に所有する方法。
があります。
直接所有なら、自分で物件を選び、融資を受け、賃貸し、管理します。
一方、REITなら一つの建物を丸ごと購入できない個人でも、証券市場を通じて不動産へ投資できます。
Nareitによると、投資口座や退職年金制度などを通じ、REITへ投資している世帯に暮らすアメリカ人は約1億7000万人と推計されています。
不動産が「建物」であると同時に、大規模な「金融市場」でもあることが分かります。
アメリカ不動産には当然リスクもある
ここまで見ると、アメリカ不動産市場には多くの投資機会があるように感じるかもしれません。
しかし、日本から投資する場合には特に注意が必要です。
為替。
現地の税制。
固定資産税。
保険料。
管理費。
修繕費。
融資条件。
現地の賃貸ルール。
売却時の税務。
地域ごとの災害リスク。
など、日本国内の不動産投資とは異なる要素が増えます。
さらにアメリカは、州や自治体によって法律や税制、賃貸市場のルールが異なります。
たとえば同じ「50万ドルの一戸建て」でも、立地が違えば税金、保険、家賃、将来の売却価格まで大きく変わる可能性があります。
そのため、
「アメリカだから値上がりする」
という考え方は適切ではありません。
日本とアメリカ、最大の違いは何か
では、日本とアメリカの不動産投資の違いは何でしょうか。
一つ挙げるなら、住宅を「流通する資産」として見る市場の大きさです。
アメリカでは住宅販売の90%以上を既存住宅が占めています。
中古住宅を購入し、
住む。
貸す。
直す。
そして再び売る。
という循環が大きな市場になっています。
一方、日本でも中古住宅流通やリノベーション市場は拡大していますが、新築住宅への志向が強かった歴史があります。
この違いは、不動産投資における「出口戦略」にも関係します。
不動産投資では、
いくらで買えるか。
いくらで貸せるか。
だけではなく、
将来、誰にいくらで売れる可能性があるのか
まで考える必要があります。
世界の不動産を見ると「日本の常識」が絶対ではないと分かる
今回アメリカを取り上げた理由は、単に市場規模が大きいからではありません。
世界の不動産を見る最初の国として、住宅に対する考え方の違いが分かりやすいからです。
中古住宅が売買の中心。
戸建ても賃貸投資の対象。
30年固定住宅ローンが普及。
巨大なREIT市場。
そして都市ごとに大きく異なる住宅事情。
同じ「不動産投資」でも、日本とはかなり違う世界が存在します。
しかし、根本は共通しています。
その場所に住みたい人、借りたい人、使いたい企業がいるか。
最終的には、この需要が不動産価値を支えます。
まとめ
「世界の不動産投資」第1回は、アメリカを取り上げました。
アメリカでは既存住宅が住宅販売全体の90%以上を占め、中古住宅が非常に大きな市場を形成しています。
一戸建てを購入して貸す投資もあれば、大規模集合住宅や商業施設への投資もあります。
さらにREITを通じて不動産へ投資する巨大な金融市場も形成されており、米国REITが保有する総資産は4.5兆ドルを超えています。
一方で、不動産投資だからといって安定が保証されるわけではありません。
金利。
物件価格。
空室。
税金。
保険。
修繕。
人口移動。
地域経済。
といった条件によって収益性は変わります。
そしてアメリカほど広い国になると、「アメリカの不動産」という括りだけで判断することには限界があります。
重要なのは、
国ではなく、都市を見る。
都市だけでなく、エリアを見る。
価格だけでなく、賃貸需要を見る。
購入だけでなく、将来の売却まで考える。
という視点です。
これは日本の不動産投資にも、そのまま当てはまります。
世界の市場を見ることは、海外不動産を購入するためだけに役立つものではありません。
他国の住宅市場と比較することで、普段当たり前だと思っている**「日本の不動産の特徴」**が見えてくるからです。
次回、第2回はイギリス・ロンドンです。
世界有数の金融都市であるロンドンには、長年にわたり世界各国から不動産マネーが流れ込んできました。
なぜ海外の投資家はロンドンの住宅を買うのでしょうか。
そして住宅価格が高い都市で、不動産投資はどのように成立しているのでしょうか。
第2回は、
「ロンドンの不動産はなぜ世界中から買われる?国際マネーが集まる住宅市場」
をテーマに、アメリカとはまた違う不動産投資の世界を見ていきます。
引用元・参考元
- National Association of REALTORS®「Existing-Home Sales Explained」
- National Association of REALTORS®「Existing-Home Sales」
- U.S. Census Bureau「Quarterly Residential Vacancies and Homeownership, Second Quarter 2026」
- U.S. Census Bureau「Housing Vacancies and Homeownership」
- Nareit「REITs by the Numbers」
- Nareit「What is a REIT?」




