スペイン・バルセロナを代表する建築物、サグラダ・ファミリア。
「いつまで経っても完成しない建物」というイメージを持っている人も多いでしょう。
実際、着工は1882年。2026年現在、工事開始からすでに140年以上が経過しています。
しかし、単純に「工事が遅いから140年以上かかった」わけではありません。
設計者の交代、資金調達、建築家アントニ・ガウディの死、スペイン内戦、設計資料の損失、そして新型コロナウイルスによる工事への影響――。サグラダ・ファミリアの歴史を振り返ると、一つの建物が世代を超えて造られることの難しさが見えてきます。
さらに2026年2月には、最も高い「イエス・キリストの塔」の外観がついに完成し、高さ172.5メートルに到達しました。しかし、建物全体が完成したわけではありません。
今回は、なぜサグラダ・ファミリアは140年以上も建設が続いているのか、そして100年以上前の設計を現代の建築技術で完成させるとはどういうことなのか、不動産・建築の視点から見ていきます。
サグラダ・ファミリアの着工は1882年
サグラダ・ファミリアの礎石が置かれたのは、1882年3月19日です。
意外かもしれませんが、最初からガウディが設計した建物ではありません。
最初の建築家はフランシスコ・デ・パウラ・デル・ビリャールで、当初はネオ・ゴシック様式の教会として計画されていました。
しかし建設途中で意見の相違が生じ、1883年に若き建築家アントニ・ガウディがプロジェクトを引き継ぎます。
そしてガウディは、当初の計画を大幅に変更。
現在私たちが知る、巨大な塔が立ち並ぶ独創的な建築へと発展させていきました。
つまりサグラダ・ファミリアは、
「ガウディがゼロから設計して1882年に着工した建物」
と説明すると正確ではありません。
すでに始まっていた建設プロジェクトをガウディが引き継ぎ、そこから壮大な計画へと変えていった建物なのです。
なぜこれほど巨大な建物になった?
ガウディが構想したサグラダ・ファミリアには、最終的に18本の塔が配置される計画です。
12使徒を表す12本。
4人の福音書記者を表す4本。
聖母マリアを表す1本。
そして中央に立つイエス・キリストを表す1本です。
この中心となるイエス・キリストの塔が、サグラダ・ファミリアで最も高い塔です。
2026年2月20日、塔の頂部にある十字架の上部が設置され、外観部分が完成。高さは172.5メートルに達しました。
約140年前に計画が始まった建物が、21世紀になってようやく最高地点まで到達したことになります。
ガウディ自身も完成を見るつもりではなかった
140年以上工事が続いていると聞くと、
「そもそも工期を考えていなかったのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、ガウディ自身も自分の生きている間に完成できないことを理解していました。
サグラダ・ファミリアの公式資料でも、ガウディは建物の規模と複雑さから、自分一人の世代では完成できず、後の世代がプロジェクトを引き継ぐ必要があることを認識していたと説明されています。
これは現代の建設プロジェクトとは大きく違うところです。
マンションでもオフィスビルでも、通常は完成時期を決めてから工事を始めます。
工期が数カ月延びただけでも大きな問題になることがあります。
しかしサグラダ・ファミリアは、
「自分が死んだ後も工事が続くことを前提に設計された建築」
だったのです。
ガウディが見届けられた塔はわずか1本
ガウディは1914年からサグラダ・ファミリアの仕事に専念するようになります。
しかし1926年、73歳で亡くなりました。
このとき建物はもちろん未完成です。
現在サグラダ・ファミリアを見ると多数の塔が並んでいますが、ガウディが完成を見ることができた鐘楼は、生誕のファサードにある「聖バルナバの塔」だけでした。これは1925年に完成しています。
つまり現在私たちが目にしているサグラダ・ファミリアの大部分は、ガウディの死後に建設されたものです。
ここで非常に難しい問題が生まれます。
設計者本人がいないのに、どうやって続きを造るのでしょうか。
さらに設計資料まで失われた
問題はガウディの死だけではありませんでした。
1936年、スペイン内戦の混乱の中でサグラダ・ファミリアは被害を受けます。
ガウディの作業場が荒らされ、設計図や写真が焼失し、石膏模型も破壊されました。
その後、残された資料や写真、復元された模型などをもとに建設が再開されます。
現代の不動産開発に置き換えてみると、その異常さが分かります。
巨大な建物を建設中に、
設計者が亡くなり、さらに重要な設計資料の一部まで失われた。
通常ならプロジェクトそのものの継続が危ぶまれる事態でしょう。
それでも後の建築家や技術者たちは、残された資料からガウディの構想を読み解き、工事を続けてきました。
「140年間ずっと同じペースで工事」ではない
ここも誤解されやすいポイントです。
1882年に着工して2026年になっても工事中だからといって、140年以上ずっと同じ速度で石を積み続けてきたわけではありません。
公式資料では、建設の流れがいくつもの段階に分けられています。
1882~1930年ごろには地下聖堂や生誕のファサードなど。
1954~1977年には受難のファサード。
1978~2010年には基礎、柱、ファサード、身廊のヴォールトなど。
そして2010年代以降は中央塔群の建設が大きく進みました。
つまりサグラダ・ファミリアの「140年以上」という数字は、一般的な建物の工期とは意味が違います。
戦争や社会情勢、資金、技術などの影響を受けながら、世代を超えて建設されてきた期間なのです。
建設資金も普通の大型開発とは違う
サグラダ・ファミリアの長い工期を考えるうえで、もう一つ重要なのが資金です。
一般的な大型不動産開発なら、事業者が資金を調達し、建物を完成させ、その後の売却や賃料収入などによって事業を成立させます。
サグラダ・ファミリアはその仕組みとは大きく異なります。
現在も資金は民間から賄われており、2025年の公式報告では年間収入1億3,450万ユーロがすべて民間由来で、そのうち51.7%が建設に使われたとされています。
多くの人が訪れることそのものが、建設を進める力になっているのです。
これは世界的な観光名所であると同時に、現在進行形の建設現場でもあるサグラダ・ファミリアならではの特徴です。
新型コロナで「2026年完成」の計画も崩れた
サグラダ・ファミリアでは、かつてガウディ没後100年にあたる2026年を大きな完成目標としていました。
ところが新型コロナウイルスの世界的流行によって状況が変わります。
観光客が激減し、建設を支えていた収入も大きく減少しました。
サグラダ・ファミリア側も、コロナ禍によって工事が予期せず停止し、訪問者から得ていた資金がほぼゼロになったことで、2026年にすべての工事を完成させるという目標を達成できなくなったと説明しています。
建築には、
設計。
材料。
人材。
技術。
だけではなく、
安定して工事を続けるための資金
が必要です。
サグラダ・ファミリアは、それを非常に分かりやすく示す建物でもあります。
それでも現代技術によって工事は大きく進んだ
140年以上前に始まった建物だからといって、現在も19世紀の工法だけで造っているわけではありません。
公式資料によると、20世紀半ばまでは木製の足場を使って施工していましたが、現在の建設手段は当然ながら大きく変化しています。
コンピューターによる設計・解析。
高精度な加工。
大型クレーン。
プレハブ化。
現代のコンクリートや金属技術。
こうした技術を使いながら、ガウディの構想を現代に実現しています。
これは非常に面白い現象です。
19世紀の建築家が考えた建物を、21世紀の建設技術で造っている。
サグラダ・ファミリアは、建築史の異なる時代が同じ現場に共存している建物ともいえるでしょう。
イエス・キリストの塔では「プレハブ」も使われた
現代的な施工方法が分かりやすく表れているのが、2026年に外観が完成したイエス・キリストの塔です。
頂部に設置された十字架は、コンクリートとステンレス鋼による14個のプレハブ部材として製造され、現場へ運ばれました。
それらを地上54メートルの作業プラットフォームで組み立て、塔の頂部へ施工しています。
これは現代の建設現場でも重要な考え方です。
現場ですべてを一から造るのではなく、工場などで高精度に製作した部材を現場へ運び、組み立てる。
こうすることで、
品質を安定させる。
現場作業を減らす。
高所作業を効率化する。
といったメリットが期待できます。
ガウディの時代には存在しなかった施工技術が、ガウディの建築を完成へ近づけているのです。
2026年、高さ172.5メートルへ
そして2026年2月20日。
イエス・キリストの塔の十字架上部が設置され、塔の外観が完成しました。
これによってサグラダ・ファミリアは高さ172.5メートルに到達しました。
2026年6月10日には、ガウディ没後100年に合わせて塔の祝福・点灯も行われています。
1882年の着工から144年。
ガウディの死から100年。
ようやく建物の中心となる最も高い塔が、その姿を現したのです。
では、サグラダ・ファミリアはついに完成した?
ここは2026年現在、特に注意したいところです。
ニュースで、
「サグラダ・ファミリア完成」
という印象を持った人もいるかもしれません。
しかし、バシリカ全体はまだ完成していません。
2026年に大きな節目を迎えたのは、6本の中央塔群です。
公式の最新建設資料では、中央塔群は2026年に完成した一方、栄光のファサードなどバシリカ全体については現在も建設中で、完成時期は未定とされています。
2026年7月時点でも中央クレーンは高さを下げて次の建設段階へ移行しており、今後は栄光のファサードの塔などの工事に使われると公式に発表されています。
つまり、
「2026年にサグラダ・ファミリアが完成した」
ではなく、
「2026年に最大の節目の一つである中央塔群が完成した」
と理解するのが正確です。
世界遺産なのは「建物全部」ではない?
サグラダ・ファミリアについて、もう一つ意外と知られていない事実があります。
「サグラダ・ファミリアは世界遺産」とよく言われますが、厳密には建物全体がそのまま世界遺産として登録されているわけではありません。
UNESCOの「アントニ・ガウディの作品群」の構成資産として登録されているのは、サグラダ・ファミリアのうち、ガウディが手掛けた生誕のファサードと地下聖堂です。
2005年にこれらが世界遺産の構成資産に追加されました。
つまり、
「世界遺産を完成させる工事が続いている」
という単純な話でもないのです。
この点も、長期間建設が続くサグラダ・ファミリアならではの面白さです。
「未完成」が街の価値になった珍しい建築
普通の不動産なら、工事中の状態は一時的なものです。
マンションもオフィスもホテルも、完成して初めて本格的に利用されます。
しかしサグラダ・ファミリアは違います。
工事中であること自体が、世界中の人を引きつけてきました。
訪れるたびに姿が変わる。
数年前にはなかった塔が立っている。
建築現場そのものが歴史の一部になっている。
これは極めて特殊な存在です。
通常、不動産の価値は「完成した建物」によって生まれます。
サグラダ・ファミリアの場合は、
完成へ向かうプロセスそのものが文化的・観光的な価値を生み出してきた
とも考えられます。
建物一つが都市のイメージを形成し、世界中から人を呼び込む。
建築が街に与える影響を考えるうえでも、非常に興味深い事例です。
建物は「完成した瞬間」がゴールではない
サグラダ・ファミリアを見ると、
「建物は完成したら終わり」
という考え方そのものについても考えさせられます。
現代のマンションでも、完成後には修繕が必要です。
外壁。
屋上防水。
給排水設備。
エレベーター。
共用設備。
などは、時間の経過とともに更新していかなければなりません。
つまり建築は、
設計する。
建てる。
完成する。
で終わるものではありません。
建てた後、どう維持し、次の世代へ残すか
まで含めて考える必要があります。
140年以上にわたって建設そのものが続いているサグラダ・ファミリアは、その極端な例ともいえるでしょう。
まとめ
サグラダ・ファミリアは1882年に着工しました。
翌1883年にガウディがプロジェクトを引き継ぎ、当初の計画を壮大な建築へと発展させました。
しかしガウディは完成を見ることなく1926年に死去。
さらにスペイン内戦では設計資料や模型の一部が失われ、その後も複数世代の建築家や職人が建設を引き継いできました。
そして2026年。
着工から144年を経て、ついにイエス・キリストの塔の外観が完成し、高さ172.5メートルに到達しました。
それでもサグラダ・ファミリア全体はまだ完成していません。
現在も栄光のファサードなどの工事が残されており、公式資料でもバシリカ全体の完成時期は未定です。
なぜこれほど時間がかかったのでしょうか。
単に「工事が遅かった」からではありません。
巨大で複雑な設計。
ガウディの死。
戦争。
設計資料の損失。
資金調達。
新型コロナ。
そして世代を超えて設計思想を引き継ぐ難しさ。
さまざまな要因が重なった結果です。
一方で、長い時間が経過したからこそ、ガウディの時代には存在しなかったコンピューター設計やプレハブ技術、大型クレーンなどを利用できるようになりました。
19世紀に構想された建物を21世紀の技術で造る。
これこそサグラダ・ファミリアの最大の面白さかもしれません。
第1回のピラミッドが「約4500年残った建築」だとすれば、サグラダ・ファミリアは「140年以上かけて造り続けている建築」です。
そして次回は、さらに時間の感覚がおかしくなる建物を取り上げます。
ドイツのケルン大聖堂です。
1248年に着工しながら、完成したのは1880年。
数字だけを見ると、実に600年以上です。
しかし実際には、600年間ずっと工事をしていたわけではありません。
なぜ300年以上も工事が止まり、それでも数百年後に建設を再開できたのでしょうか。
第3回は「ケルン大聖堂は完成まで600年以上?300年以上も工事が止まった理由」をテーマに、建築が世代だけでなく「時代そのもの」を超えて完成した理由を見ていきます。
引用元・参考元
- サグラダ・ファミリア公式「History of the Temple」
- サグラダ・ファミリア公式「Phases of construction of the Sagrada Família」
- サグラダ・ファミリア公式「This is how the cross on the tower of Jesus was built」
- サグラダ・ファミリア公式「Report」
- サグラダ・ファミリア公式「Blessing and inauguration of the tower of Jesus Christ」
- UNESCO World Heritage Centre「Works of Antoni Gaudí」
- UNESCO World Heritage Committee「Decision 29 COM 8B.47」




