2020年に世界を襲ったコロナショックは、過去の金融危機とは異なる形で始まりました。金融機関の破綻や資産バブルの崩壊ではなく、感染拡大を防ぐために人の移動や営業活動が制限され、実体経済が急停止したことが出発点です。
株式市場は短期間で急落しましたが、その後は各国の大規模な政策対応を受けて回復へ向かいました。一方、不動産市場では、ホテルや店舗、オフィス、住宅、物流施設など、用途によって影響が大きく分かれました。今回は、コロナショックが市場へ広がった仕組みと、不動産投資に残した教訓を考えます。
感染症が経済活動そのものを止めました
世界保健機関(WHO)は2020年3月11日、新型コロナウイルス感染症をパンデミックと位置付けました。当時は感染の広がりや収束時期が見通せず、各国で渡航制限、外出制限、店舗の休業、イベントの中止などが相次ぎました。
通常の景気後退では、需要が徐々に弱まり、企業が生産や雇用を調整します。しかし、コロナショックでは、感染対策によって多くの経済活動が短期間に停止しました。飲食、宿泊、観光、航空、娯楽など、人の移動や対面サービスに依存する業種ほど、売上が急減しました。
米国では2020年2月を景気の山として後退局面に入り、4月には底を迎えました。期間は2カ月と短かったものの、落ち込みの深さと広がりは極めて大きなものでした。
株式市場では「先が見えないこと」が売りを呼びました
感染が世界へ広がった2020年2月下旬から3月にかけて、主要国の株価は急落しました。日本銀行は、世界の株価が急落し、予想変動率がリーマンショック時以来の水準まで上昇したと振り返っています。
株価が下がった理由は、企業業績の悪化だけではありません。感染がいつ収束するのか、営業をいつ再開できるのか、企業が資金不足に耐えられるのかを判断できず、投資家が一斉に現金を確保しようとしました。
安全資産とされる国債の市場でも流動性が低下し、ドル資金の調達も難しくなりました。つまり、株式の値下がりが問題だっただけでなく、市場全体で「すぐに使える資金」を求める動きが強まったのです。
リーマンショックとは危機の出発点が異なりました
2008年のリーマンショックは、住宅ローン関連商品の損失と金融機関への信用不安から始まりました。これに対し、コロナショックは感染拡大に伴う実体経済への打撃から始まり、その影響が金融市場へ波及しました。日本銀行も、コロナショックを金融部門ではなく、実体経済に端を発する危機と整理しています。
ただし、企業の売上が途絶えれば、家賃、給与、借入金を支払えなくなります。倒産や融資の焦げ付きが増えれば、実体経済の問題が金融危機へ発展する可能性もありました。
各国政府と中央銀行が早い段階で資金繰り支援に動いたのは、この連鎖を防ぐためです。日本銀行も2020年3月、潤沢な資金供給、企業金融支援、ETFやJ-REITの積極的な買い入れを含む金融緩和の強化を決定しました。
株価は実体経済より早く回復へ向かいました
各国は給付金、雇用維持策、融資保証、中央銀行による資産購入などを相次いで導入しました。資金不足による企業倒産や金融市場の機能停止を抑える姿勢が示されると、市場の緊張は次第に和らぎました。
株価は将来の利益を先回りして動くため、足元の景気が厳しいままでも、感染収束や経済再開への期待が高まれば上昇します。日本銀行も2020年6月時点で、各国の迅速な政策対応を背景に、多くの国で株価が値を戻したと説明しています。
そのため、街の店舗やホテルが苦境にある一方で株価が上昇するという、実感と市場価格のずれが生まれました。コロナショックは、株価が現在の景気だけを表すものではないことを改めて示しました。
不動産市場では用途による差が鮮明になりました
不動産は一つの市場ではありません。感染拡大による影響は、誰が、どのような目的で建物を利用するかによって大きく異なりました。
国土交通省の2020年第3四半期の地価LOOKレポートでは、主要都市の調査地区のほぼすべてが横ばいまたは下落となり、住宅系より商業系で下落地区の割合が高くなりました。ホテルや店舗の収益性低下によって需要が弱まる一方、マンションやオフィスの需給には、その時点で大きな変化が見られないとされました。
また、2021年の地価公示では、全国平均が全用途で6年ぶり、住宅地で5年ぶり、商業地で7年ぶりの下落となりました。ただし、すべての地域や物件が同じように下落したわけではなく、コロナ禍の影響には用途や地域による差がありました。
ホテルと店舗は移動制限の影響を直接受けました
ホテルは宿泊者が利用することで、店舗は来店客が商品やサービスを購入することで収益を生みます。渡航や外出が減ると、売上は短期間で落ち込みます。
テナントの経営が悪化すれば、賃料の減額や支払い猶予、退去が発生する可能性があります。所有者にとっては、建物が存在していても、利用者の活動が止まれば収益が大きく低下するというリスクが表面化しました。
特に観光客やオフィス勤務者に需要を依存するエリアでは、立地の評価そのものが一時的に変わりました。「人が集まること」が強みだった不動産ほど、人が集まれない状況の影響を受けたのです。
物流施設と住宅は比較的底堅い面を見せました
外出を控える人が増えると、インターネット通販や宅配サービスの利用が広がります。国土交通政策研究所も、感染拡大による消費行動の変化が電子商取引を促進し、物流へ大きな影響を与えたと説明しています。
物流施設は、店舗への来客が減っても、商品を保管し配送する拠点として必要です。コロナ禍は、同じ商業活動に関係する不動産でも、店舗と物流施設で需要の方向が異なることを示しました。
住宅も生活に不可欠であるため、ホテルや店舗と比べれば需要が急に消えにくい資産です。一方、収入減少による家賃負担、在宅勤務に適した間取り、都心への近さと住環境のどちらを重視するかなど、住まい選びの条件には変化が生まれました。
オフィス不要論だけでは説明できません
在宅勤務が急速に広がると、「オフィスは不要になる」との見方も登場しました。しかし、働く場所の変化が、すぐにすべてのオフィス需要を消すわけではありません。
企業は契約期間、移転費用、採用、情報管理、従業員同士の交流などを考慮して拠点戦略を決めます。実際には、面積を減らす企業がある一方、会議や共同作業の場所としてオフィスの役割を見直す企業もあります。
重要なのは、テレワークの普及だけで結論を出すのではなく、立地、建物の機能、入居企業の業種、契約条件を確認することです。社会の変化は、不動産需要を一律に消すのではなく、選ばれる物件と選ばれにくい物件の差を広げます。
現在の不動産投資に通じる三つの教訓
第一の教訓は、表面上の分散だけでは不十分だということです。複数の物件を所有していても、すべてのテナントが観光や外食など同じ需要に依存していれば、一つのショックで同時に影響を受けます。
第二の教訓は、平常時の利回りより、収入が止まった場合の耐久力が重要だという点です。空室、賃料減額、修繕費、ローン返済が重なっても保有を続けられるよう、手元資金と借入条件を確認する必要があります。
第三の教訓は、社会の変化を「不動産全体の上昇・下落」で捉えないことです。コロナ禍では、ホテルや店舗が打撃を受ける一方、物流施設への需要が高まりました。物件の用途と利用者を具体的に見ることが大切です。
まとめ
コロナショックは、感染症によって実体経済が急停止し、その不安が金融市場へ波及した危機でした。株価は急落しましたが、大規模な財政・金融政策によって市場の機能が支えられると、実体経済よりも早く回復へ向かいました。
一方、不動産市場では、ホテル、店舗、オフィス、住宅、物流施設で影響が分かれました。建物の価値は立地や築年数だけでなく、利用者の行動、テナントの事業、資金調達環境によって変化します。
同じ形の危機を予測することはできません。しかし、収入源が何に依存しているか、利用者が減った場合にどこまで耐えられるかを考えることはできます。相場全体の動きではなく、物件ごとの収益構造と利用価値を確認することが、コロナショックから得られる重要な教訓です。






